前回は平均値と標準偏差を用いて投資を決定する事を学んだ。今回は同様に平均値と標準偏差を用いて、国の経済政策の基本的な考え方に応用したい。前回と同じように無差別曲線を用いて考えてみる事にする。
比較の方法――平均ではなく標準偏差で考える
国民の平均所得と標準偏差という二元的な比較を、一元的に考える事を試みて見よう。一般的に考えるならば、二つの社会を比較する時、もし平均所得が同じならば、バラツキ(格差)が少ない方が価値がある(社会的効用が高い)し、また、バラツキが同じならば、平均所得が高い方が良いと見なされる。

図1で考えると、A、B、Cという三つの所得分布があった時、AとBでは平均所得(μ)は同じだが、BはAよりバラツキが小さいので、Bのほうが社会的効用が高い。また、BとCとを比べると、バラツキは同じだが、CはBより平均値が高い。従って、社会的効用はCが一番高く、Bがその次で、Aが一番低いという事ができる。
この考え方は、前回までにも繰り返し強調してきたが、私がこのシリーズを通して読者に身につけて頂きたい最も大事な統計的基本概念である。会社での日常業務を含むすべての社会現象は、この考え方に基づいて改善されなくてはならない。AからBへ、BからCへとコツコツと努力を重ね全体の向上を図ることによってのみ、安定した成長が見込めるものである。広い標準偏差を狭める努力なしに平均値を引き上げようとすると、ムリやムダやキレツが生じ、全体最適の道から外れるものである。
さらに図 1 で、バラツキを標準偏差(σ:シグマ)で表し、A、B、Cのシグマをそれぞれ σA=200、σB=100、σC=100と仮定する。
上記の三つの分布A、B、Cを、σを縦軸とし、μを横軸と考えた平面上で表すと、図2の様になる。

図2は左上から右下に向かうにしたがって、より高い効用が得られる。図2おける一群のカーブは効用曲線群を表し、一つの曲線上では、σとμとの組み合わせが変わっても効用は同じレベルにあり、一つの無差別曲線となる。この図においては、BはAよりも高い効用曲線上にあり、CはBよりもさらに高い効用曲線上にある事がわかる。
日本の「年間収入五分位階級別1世帯当たり年平均1か月間の収入」の基礎データを統計資料から集め、1976年から2007年までの32年間にわたり、1世帯当たりの平均収入とそのバラツキの尺度として標準偏差を計算し、図3−1と図3−2に表してみた。
これらの図では横軸に平均所得を取り、縦軸に標準偏差を取り、所得の平均と標準偏差で表したそれぞれの点を、効用曲線上の比較においてとらえたものである。点が右下に進むに従って、効用が増えるという事を表している 政府のマクロ経済政策は、平均所得のみではなく標準偏差を測った効用曲線を用いて評価する事が求められる。
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