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耕作上司、あえて部下を欺く。

  • 稲垣 公雄

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2010年7月7日(水)

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 前回登場した「星一徹」タイプの上司には、大きな反響をいただいた。ただし、その積極的すぎる姿勢に対しては少し敬遠する声も聞かれた。今回登場するのは、組織を盛り上げていく万能型のマネージャーだ。スネオ上司マスオ上司が並ぶ丸定商事の営業部課長会議で、その手腕の片鱗が見え始めた。

 また、前文で紹介しなかった「ダメおやじ」上司の回を読む方はこちらから。

2010年7月9日16時30分。 丸定商事・営業部会議室――。

「みなさん、お忙しいところありがとうございます。本日は、今後の営業部の業務の進め方について、少し、ご相談を差し上げたいと思っています」

 金曜日の夕方は、隔週で定例の営業部課長会議になっている。司会はいつも2課の島田幸作課長。田中部長と、4人の課長にあわせて、各課から1名ずつ補佐が参加する。高村圭吾は3課の補佐。2課からは同期の中川丈人、1課はしばらく空席だったが、先月から石田美子が出席している。営業サポートからは福田グループリーダーと、ベテランの只野。今日から書記役として高村の後輩の岩越も参加させている。

「議題は新規営業の体制について、特に重点顧客のA社への対応です。じゃぁ、高村くん、よろしく」
「はい。では、お手元の資料No.1をご覧ください…」

 先週、美子が始めての営業提案を成功させた日の夜、高村は島田から以前、言われたことを思い出した。

「ただ営業先を回って数字をとってくるだけがお前の仕事じゃないだろ? みんな、お前に期待してるんだぞ」

 4月頃、島田と飲んだ時に言われたことだ。いや、忘れていたわけではない。だが、日々の忙しさにかまけて、何も具体的に行動を起こしていなかった。美子と話していて、とりあえず自分も何か動いてみようと思った。
 まず、島田課長に相談した。具体的には、A社への対応と後輩の岩越の育成について。どちらも高村が責任者に指名されていた。A社への対応については、まずこの会議で問題提起してみようということになった。

「…というのが、A社と当社の取引の状況です。それで、今後の対応について、みなさんからご意見をいただければと思っています。方向性としては以下の3つの選択肢があるかと考えています。まず……」

 説明が終わった途端、3課の本川課長が口を開いた。

「このA社の開拓は、うちの部として最大の課題ですから、少なくともこれぐらいの動きはしていかないといかんでしょう。高村にも言ったんですが、まだスピード感が遅すぎるぐらいですよ。ね、部長」
 「ああ、そうですね、本川さん…。それにしても、高村くん、この資料はよくまとまっているね。当社とA社の関係がすごくよくわかるよ。いいよね――。それで、この3つの代案か…。星野さんはどう思う?」
 「もしこの代案1の方向でいけたら、なんとかなるかもしれませんね。必要なら石田もサポートに回らせますよ。先ほど説明した通り、石田の担当しているB社はひとやま越えましたから」。
 1課の星野の話を受けて、島田が口を開いた。
「私も基本線は代案1だと思いますが、代案2もありだと思います。まあ、いずれの案にしても営業サポートグループ次第じゃないですかね」

 全員の視線が福田に集まる。島田の言うとおり、高村の案は全て営業サポートグループにこれまで以上の負担を強いるものになっていた。そこが最大のポイントである。福田が口を開く。

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