これまでのあらすじ
ヒノハラ社長の団達也は、日豊自動車の湯浅専務から、ヒノハラとの間の取引に不審な点がないか調べるよう言われた。
達也の指示で経理部長の細谷真理が調査した結果、ヒノハラは日豊自動車の研究開発部門に相場よりかなり高い値段で部品を納品しており、架空の接待費の請求書も見つかった。
日豊自動車の松田義一社長は、アジアで競争力を持つ、低価格のガソリンエンジン車を開発するよう、専務の湯浅に命じていた。その結果、新型車「メイ」の発表が決まった。しかし、目標の性能を実現するためには、エネルギーロスをさらに減らさなくてはならなかった。
湯浅はヒノハラに何か良いアイデアがないか聞いてみようと考えていた。
達也のシンガポール大学時代の親友ジェームスは、上海の投資会社で新しいスタートを切っていた。上海では、やはり大学の同窓であるリンダが「李団有限公司」という自身の会社を立ち上げ、達也との自動車部品ビジネスを実現するための準備をしていた。
達也のビジネスモデルは、「金子順平が開発した製品を日本で量産し、上海にあるリンダの会社に輸出。リンダは親戚一族のルートを使って、中国の主要メーカーに販売する。資金はジェームスの会社に出資を頼み、3年後をメドに株式公開する」というものだった。
ヒノハラ
リンダとジェームスとの会食を半日後に控え、達也は迷っていた。このままヒノハラの経営者であり続けていいものか。日豊自動車の新型ガソリンエンジン車に組み込む部品が完成すれば、休止状態のヒノハラの工場は間違いなくフル操業することは間違いない。もしかしたら、工場の増設を依頼されるかもしれない。そうなればヒノハラは、当分の間、安泰だ。

だが、達也は自分の中で仕事への情熱が萎えていくのを感じていた。大手企業から仕事をもらい、コバンザメとして生きていく。これでは日野原五郎がやってきたことと同じではないか。そうではなく、リスクをとって、自分の意思でビジネスをしたいのだ。
それは何かといえば、リチウム電池の能力を飛躍的に高める電子部品のリリース、それしかない。金子はこの製品の開発のために、もう1カ月以上も研究室に泊まり込んでいる。ヒノハラでは、いつの間にかこの部品を「KO1」と呼ぶようになっていた。金子が鬼の形相で取り組んでいる製品という意味なのだ。
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