「第三企画室、出動す 〜ボスはテスタ・ロッサ」

episode:62
「まもなくTOBを仕掛けてくると思います。」

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2010年7月13日(火)

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前回までのあらすじ

老舗 大日本鉄鋼に旭山隆児(あさひやまりゅうじ)が呼び戻され、第三企画室が設置され1年が過ぎようとしていた。独立した新会社オルタナティブ・ゼロでは旭山社長のもとで働くのは第三企画室室長 風間麻美(かざまあさみ)、次長 楠原弘毅(くすはらこうき)。気持ちを持て余し気味の麻美は、仲間に支えられていることを実感していた。

【登場人物の紹介はepisode:zeroをどうぞ】

「社長として、この会社を守りたいんだ」

 旭山さんはそのために自分で会社を買い取るつもりだという。それがどういうことなのか、楠原弘毅にはまるでピンと来なかった。

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「ヒッタイトの買収が成功すれば、オルタナティブ・ゼロが存続する可能性はほとんどない。彼らは鉄屋としての勢力拡大と技術の獲得を目指している。オルタナティブ・ゼロは、その正反対に鉄とは無関係な事業の可能性を模索している会社だ。しかも、第三企画室はいわば松宮会長の個人プロジェクトのような形で始まったものだ」

「ヒッタイトは役員の入れ替えを要求するんでしょうか」

「当然、そうなると思う。もし、大日本鉄鋼がヒッタイト・スチールの傘下に入った場合、日本独自の経営をさせる可能性はほとんどない。どう考えても世界戦略を実行できる経営陣じゃないしな」

 いつものことだけど、旭山さんは大日本に容赦がない。

「いま思えば松宮さんがいちばん世界が見えていた。残念ながら役員の世代交代は済んでいる」

 会長職になったからこそ、松宮さんは自由な立場で第三企画室を、そしてオルタナティブ・ゼロを作ることができた。だが、傍流だからこそ、ヒッタイトが入ってくれば真っ先に切り捨てられる。そういうことらしい。

「大日本鉄鋼だけでなく、日本のほとんどの大企業の経営者は世界で通用しない。アニュアル・リポートを見ればわかる。株主総会で業績が悪いことを説明するのに、景気の低迷、国際競争の激化、なんて〈外的要因〉のせいで、自分たちの責任ではないといわんばかりだ。日本の景気が悪いのなら、景気のいい国でうまく商売をできるように会社を変えていく必要がある。少なくとも自動車会社は外へ出て行っている」

 日本の会社が日本でものを作っていては世界で競争できないから外国で作る。そして、日本人はそれを輸入する。理屈では当たり前だけど、どこか腑に落ちない感じがする。でも、それが正しい経営判断というものだ。

 そして、本当に正しい経営判断をすれば、多くの製造業は日本にいない方がいい。

「大日本鉄鋼はブラジルの鉄鉱山の買収には成功した。そこで高炉をもつ会社に出資もした。仲立ちとして商社の助けを借りた上でのことだが、南米ではそこそこやってる。それでも大日本鉄鋼は外へ出ていくことが十分できているとはいえない。中国やインドではまるで出遅れている」

「国内市場はこれからも伸びることはない。だって国内需要はもう大きくならないし、お客さんだった国内製造業が生産を海外に移してしまっているんだから」

 よってたかって思ったことを言っているうちに、まるで会社の悪口を言いあっているみたいだった。

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著者プロフィール

阿川 大樹(あがわ・たいじゅ)

小説家、コラムニスト。1954年、東京生まれ。日本電気(NEC)およびアスキーで半導体LSI開発エンジニアおよび半導体部門事業責任者。1991年より、米国シリコンバレーの半導体ベンチャー企業の設立に参加。1997年、小説家に転身。1999年、サントリーミステリー大賞優秀作品賞。2005年、ダイヤモンド経済小説大賞優秀賞。著書にはシリコンバレーで起業する日本人技術者と巨大資本の闘いを描いた『覇権の標的』、最新刊は『フェイク・ゲーム』。横浜市の元特殊飲食店街・黄金町に仕事場「黄金町ストーリースタジオ」を構え、地域の人と共に、町の再生プロジェクトにも参加している。日本推理作家協会会員。



このコラムについて

第三企画室、出動す 〜ボスはテスタ・ロッサ

「ものづくり」の栄光にも、金融のゲームにも、なりゆきまかせの楽観論にも頼らずに、日本企業の未来を拓く。隣が何をしているのかさえ分からない大組織どうしの思惑が絡み合う巨大な経済の中で、大きな目的を与えられた個人たちに何ができるのか。製鉄会社「大日本鉄鋼」に極秘裏に組織された「第三企画室」が、走り出す。

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