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episode:63
「ずっと勤めた会社を売ってしまっていいんですか」

  • 阿川 大樹

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2010年7月20日(火)

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前回までのあらすじ

老舗 大日本鉄鋼に旭山隆児(あさひやまりゅうじ)が呼び戻され、第三企画室が設置され1年が過ぎようとしていた。独立した新会社オルタナティブ・ゼロでは旭山社長のもとで働くのは第三企画室室長 風間麻美(かざまあさみ)、次長 楠原弘毅(くすはらこうき)。本社管理部日枝が伝えたニュースは、3人の運命を変えようとしていた。

【登場人物の紹介はepisode:zeroをどうぞ】

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 長い長い沈黙。

 ほんとうは1分か2分くらいだったのだと思う。言葉を探すことができなかった。判断を求められていた。オルタナティブ・ゼロを3人で続けるかどうか。

 判断どころか、頭が真っ白になっていた。

 今までの1年のすべてを失う可能性があると、突然に言われたのだ。

 あまりにも濃密な1年だった。

 セクハラをきっかけに新しい部署に異動すると、そこはマンションの一室で、破天荒な上司がいて、そこに新入社員が合流し、仕事の進め方から内容まで、何から何まで新しい環境に放り込まれた。

 本当に、毎日毎日、ついていくのがやっとだった。

 ついていく?

 自分の前には誰もいなかった。だから目の前を走る人がいて、その誰かを追いかけていたわけじゃない。いうなれば、世の中についていく……、そんなことだ。大日本鉄鋼という静かな会社で、そこにあったシステムの中で、一人前に仕事をしていたつもりだったのに、ある日を境に大海に放り出された感じだった。

 大海で必死で泳ぐことこそが、狭い井戸の中から外へ出ること。

 泳いでいるうちに自分がやるべきことが、形になって見えてきた。

 次には、見えたものを形にしようと、必死だった。

 睡眠をとるのが精一杯で、家で洗濯をする時間がなくて、人と同乗したタクシーで自分の匂いが心配になるほど。運命の男が現れても、近づくのを躊躇するほど。(幸か不幸か、そういう男に出会わなかったけれど)

 そして、まもなく本当のスタートを切るというタイミングに、自分の努力や能力とは無関係の天変地異が降って湧いて、それまでのすべてが無に帰するかもしれないと言われたのだ。

 そんな馬鹿なこと! 

 理不尽だと思った。怒りたかった。でも、怒る相手がいない。

「わたしに選べと言うのですね」

 やっと口にした旭山さんに向けた言葉は、おそらく棘をもっていて、旭山さんは苦しそうに顔を歪めた。

 そうじゃない。旭山さんを責めているのではない。

 けれど言葉が出てこない。

 オルタナティブ・ゼロを大日本鉄鋼の子会社ではなく、本当に独立した自分の会社として続けていきたい。旭山さんが社員2人を前に言っている。そして、わたしはその社員のひとり。

 失いたくない。

 頭の中の混沌が少しずつ収まり始め、濁ったものが底に沈むと、澄んだ中に形になって残ったのは、この会社を、つまりこのチームを、失いたくないという強烈な気持ちだった。

 失いかけたとき、人はもっていたものの本当の価値がわかる。

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