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1人の“窓際”社員が成し遂げた業態転換

入社以来訴え続けた「メーカーへの変身」を30代で実現

2010年7月20日(火)

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 企業に寿命はないが、事業には寿命がある。既存の主力事業が寿命を迎えたら、新たに勢いのある成長事業へと乗り換えなければならない。そうしなければ、事業の寿命とともに企業も息絶えてしまう。

 私が編み出した言葉で表現すれば、不毛の地と化した既存の事業立地に見切りをつけて、新たに別の肥沃な事業立地を探し出す。いわば転地を行うことが、永続する企業への第一歩となる。

 だが、どうすれば転地を成功させることができるのか。これが本コラムのテーマである。今回から各論に入り、転地のタイミングの見極め方やプロセスなどについて、実例を基に論じていく。

 ここで断っておくが、転地のパターンは1つだけではない。過去の成功例を見ても、実にいろいろなパターンがある。その中から、典型的なパターンをいくつか取り上げて、成功のポイントを分析していく。「我が社はこれだ」と思うものを見つけていただきたい。

ダイナミックな転地を実現して国内シェアトップに

 私はこれまで1000社を上回る国内企業の経営戦略を調べ、戦略の成否について分析してきた。その中で主力事業の転換、すなわち転地の成功例と失敗例も数多く見てきた。今回は、成功例の中でも最もダイナミックな例を紹介しよう。

 ダイナミックな転地を実現したのは、福井県福井市に本社を置く総合繊維メーカーのセーレン。自動車用シート材では国内シェアトップに立つ北陸地方屈指の優良企業である。

セーレン社長の川田達男氏
(写真:達川 要二 以下同)

 東京証券取引所第1部に上場している大企業だが、その名前を初めて聞く読者の方も少なくないかもしれない。同社がトップバッターとして登場することに違和感を覚える方もいるだろう。

 しかし本稿の最後まで目を通していただければ、ほかの会社に先がけてセーレンを紹介することに納得していただけると思う。それほど傑出した転地の成功例である。

 同社が創業したのは、今から121年前の1889(明治22)年。1894年に日清戦争が開戦する前のことだ。

 それから100年近くにわたって、繊維メーカーから生地を預かって染色加工を行い、加工賃を受け取るという事業を営んできた。ちなみに同社の社名は、生地を染色する前に余分な成分を取り除く「精練」と呼ばれる作業に由来する。

創業家に後を託され、47歳で社長に就任

 何度かの好況の波に乗って同社は事業を拡大する。ところが、1970年代に入ると、日米繊維摩擦やニクソンショックによる円高、2度にわたる石油危機の影響を受けて、生地の染色加工の収益性は急速に悪化していく。本業が構造不況に陥り、セーレンは83年5月期から3期連続で経常赤字を計上。倒産寸前の経営危機に瀕した。

 しかし、そこから自動車シート材を主力とする繊維製品のメーカーへ業態転換し、業績を急回復させる。2008年9月のリーマンショックを発端とする世界同時不況が起きる前の2008年3月期には、連結売上高は1129億円、経常利益は73億円に達した。

 賃加工の業者からメーカーへの転地を実現し、経営危機脱出の立役者となったのが、現社長の川田達男氏だ。前任の黒川誠一氏まで創業家出身者が中心となって経営してきた老舗オーナー企業で、87年に創業家以外から社長に選ばれた。

 その時、川田氏はまだ47歳。役員になっていたとはいえ最年少である。社長就任には本人をはじめ社内の誰もが驚いたという。もっとも、注目すべきはこの大抜擢人事ではない。

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「1人の“窓際”社員が成し遂げた業態転換」の著者

三品 和広

三品 和広(みしな・かずひろ)

神戸大学大学院経営学研究科教授

専攻は経営戦略・経営者論。1989年米ハーバード大学文理大学院企業経済学博士課程修了、同大学経営大学院助教授に就任。北陸先端科学技術大学院大学助教授などを経て、2004年から現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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手嶋 龍一 作家・ジャーナリスト