これまでのあらすじ
日豊自動車では、低価格のガソリンエンジン車「メイ」の発表が決まった。しかし、目標の性能を実現するためには、エネルギーロスをさらに減らさなくてはならなかった。開発担当役員の湯浅はヒノハラに協力を求め、ヒノハラでは部品の開発に全力を注いでいた。
ヒノハラ社長の団達也は、シンガポール大学時代の親友ジェームスとリンダと久しぶりに東京のホテルで会うことを約束していた。ジェームスはロンドンの投資銀行をクビになった後、上海の投資会社で新しいスタートを切っていた。上海ではリンダが「李団 有限公司」という自身の会社を立ち上げ、達也との自動車部品ビジネスを実現するための準備をしていた。
達也のビジネスモデルは、「金子順平が開発した製品を日本で量産し、上海にあるリンダの会社に輸出。リンダは親戚一族のルートを使って、中国の主要メーカーに販売する。資金はジェームスの会社に出資を頼み、3年後をメドに株式公開する」というものだった。
金子はリチウム電池の能力を飛躍的に高める電子部品の開発のために、1カ月以上も研究室に泊まり込んでいた。ヒノハラでは、いつの間にか金子が開発しているこの部品を「KO1」と呼ぶようになった。
達也は日豊自動車向けの開発製品が完成したらすぐに、ヒノハラを日野原太郎に譲り、真理と金子とともにMTCで新ビジネスを始めようと考えていた。
東京駅近くのホテル
達也は真理と連れ立って東京駅に近いホテルのレストランに到着した。まだ、夜の7時だというのに、ほとんどのテーブルは客で埋まっていた。
「こんな豪華なレストランだって知ってたら、もっとおしゃれしてきたのに」
と言って、真理は達也の服の袖を引っ張った。
「いまのままで、十分、きれいだよ」
達也は真理の耳元でささやいた。
2人がレストランに入ったとたん、男の声が聞こえた。
「ダン、久しぶり!」
ジェームスだった。隣には、真っ白のワンピースを着たリンダが立っていた。
達也は2人に右手を差し出した。
「今日は、ハグはないの?」
リンダは不満そうな表情を浮かべた。それから、達也に連れられてきた真理を無視して「あなた、一人で来るんじゃなかったの?」と、英語で言った。
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