「第三企画室、出動す 〜ボスはテスタ・ロッサ」

episode:64【最終回】
「ヒッタイトのおかげで、ちょっと、われわれに幸運がやってきた。」

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2010年7月27日(火)

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前回までのあらすじ

老舗 大日本鉄鋼に旭山隆児(あさひやまりゅうじ)が呼び戻され、第三企画室が設置され1年が過ぎようとしていた。独立した新会社オルタナティブ・ゼロで働くのは、第三企画室室長 風間麻美(かざまあさみ)と次長 楠原弘毅(くすはらこうき)のふたり。本社管理部日枝が伝えたニュースに、3人は重大な決断を下そうとしていた。

【登場人物の紹介はepisode:zeroをどうぞ】

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 空は文句のつけようがない快晴。

 誰が聞いてもハーレーだとわかるエンジン音を轟かせて、颯爽とやってきたハナちゃんが第一声をあげた。

「よかったぁ〜、ほんとに晴れた。わたし雨女だから、マジ、心配してたんですけど」

 暑くなりそうだ。でも、午前11時の茅ヶ崎は、松林を越えて心地よい海風が吹き始めたところだ。

 弘毅くんは信用金庫の団扇をバタバタさせて、バーベキューの炭を熾(おこ)している。

「火を熾すにはちょっとしたコツがあるんですよ」なんて、得意気に蘊蓄(うんちく)をいうけど、ネットのアウトドア・サイトで調べたにわか知識だってことはバレている。紙だけでやっていたときにはモクモクと白い煙ばかり出ていた。それを諦めて、ほんの少し前に着火剤を使ったのを見た。上司の目はごまかせない。

 でも、最悪の事態を免れるために、きちんとバックアップの方法を用意した上で、チャレンジをする。今日の彼の仕事の進め方は、上司としてそれで満点をあげられる。

「風間さん、今日は絶対飲み過ぎちゃだめですよ。社長なんですから」

 憎たらしいことをいうヤツだけど、彼には酔っ払って何度も迷惑をかけている。はい、気をつけます、とここは秋の稲穂のように頭(こうべ)を垂れる。

 受付のテントに「唐沢町商工会」とあるのはご愛敬。近所の商店街からの借り物だ。

「そろそろ料理届くからテーブルクロス用意しといて」

 ケータリング会社は使わない。

 井上精肉店から、コロッケ、メンチカツ、それに特上の焼き豚。鳥保から定番の鶏の唐揚げと焼き鳥各種。八百春から、茹で野菜と地元で採れた冷やしトマト(ドレッシングは料理スタイリストをしているお嬢さんの特製)。銀天楼からは、春巻と玉子チャーハン。

 全部、地元の商店街に注文して並べて貰っている。もちろん料理のテーブルには店の名前を大きく表示してある。それぞれの大皿の脇には、それぞれオリジナルデザインの名刺大のショップカードも添える。

 このあたりの発案は広報宣伝担当のハナちゃんだ。

 まず、お仕着せの既製品ではなく一品一品手作りをする会社だから、そのイメージとマッチすること。そして、会社に足を踏み入れやすい空気を作ること。最後に、地域社会との融和だ。

 商店が建ち並ぶ通りからは2ブロックほど離れているけれど、突然、松林の中にできた掘っ立て小屋に、入れ替わり立ち替わりオートバイや車が出入りすることになる。地元に警戒感ができないように、地元と交流をする姿勢を明確にしていくことが、ビジネスのリスク回避の上でも重要だと考えたのだ。

 商店会と仲良くしておくことは、まさに一石三丁というわけだ。

 商店会のオジサンたちとの交渉は、長身の美女、ハナちゃんが直接に出かけていくことで、一発でうまくいった。

 さっそくこちらも商店会に加入して、8月の盆踊り大会の寄付をした。社名の入った提灯が矢倉に並ぶ。浴衣を着て従業員総出で参加する。

 勝手に作っていったショップカードはもちろん大好評だ。

 ずっと店で使いたいからもっと欲しいといわれたので、同じ商店会の印刷屋さんで印刷できるように、そちらにデータをわたし、印刷屋さんからは売り上げの10パーセントをもらうことにした。専用の注文票まで用意してある。

 わずかな額だけれど、そうして、みんなのお金が動き、関係ができていくことがビジネスでは重要なのだ。

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著者プロフィール

阿川 大樹(あがわ・たいじゅ)

小説家、コラムニスト。1954年、東京生まれ。日本電気(NEC)およびアスキーで半導体LSI開発エンジニアおよび半導体部門事業責任者。1991年より、米国シリコンバレーの半導体ベンチャー企業の設立に参加。1997年、小説家に転身。1999年、サントリーミステリー大賞優秀作品賞。2005年、ダイヤモンド経済小説大賞優秀賞。著書にはシリコンバレーで起業する日本人技術者と巨大資本の闘いを描いた『覇権の標的』、最新刊は『フェイク・ゲーム』。横浜市の元特殊飲食店街・黄金町に仕事場「黄金町ストーリースタジオ」を構え、地域の人と共に、町の再生プロジェクトにも参加している。日本推理作家協会会員。



このコラムについて

第三企画室、出動す 〜ボスはテスタ・ロッサ

「ものづくり」の栄光にも、金融のゲームにも、なりゆきまかせの楽観論にも頼らずに、日本企業の未来を拓く。隣が何をしているのかさえ分からない大組織どうしの思惑が絡み合う巨大な経済の中で、大きな目的を与えられた個人たちに何ができるのか。製鉄会社「大日本鉄鋼」に極秘裏に組織された「第三企画室」が、走り出す。

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