「ダニエル・ピンクの「やる気の研究」」

やる気は「お金」では買えない

「上手くなりたい」が「やる気」を生む

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2010年7月27日(火)

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――この6月に発行された「モチベーション 3.0」(原題:“Drive”)を執筆したきっかけは?

ピンク 前作である、「ハイコンセプト:新しいことを考え出す」(原題:“A Whole New Mind”)を書いたことだ。その本の中で私は「我々は左脳、つまりスプレッドシートを処理する能力から、芸術的な能力、共感する能力で注目されている右脳の時代に移行している」と書いた。すると読者は私にこうたずねてきた。「このようなことをするのにどのようにして人にやる気を起こさせたらいいのか」。この質問を受けて、「やる気」(drive)について調べてみようと思い立った。

 動機付けについて膨大な研究が行われてきたことは知っていた。そこで論文を読み始めることにした。すると、驚くべき内容に当たった。

十分な報酬がないと、最低限の仕事しかしない

ダニエル・ピンク
 1964年生まれ。エール大学ロースクールで法学博士号を取得。米国上院議員の経済政策担当補佐官を務めた後、クリントン政権においてアル・ゴア副大統領の主席スピーチライターとなる。フリーエージェント宣言後、世界各国の企業、組織、大学において講義を行うかたわら、「ワシントン・ポスト」「ニューヨーク・タイムス」「ハーバードビジネスレビュー」「ワイアード」などに精力的に寄稿している。著書に「フリーエージェント社会の到来――『雇われない生き方』は何を変えるか」、「ハイコンセプト『新しいこと』を考え出す人の時代」など。

 お金は、我々がふだん考えるほど重要ではないということだ。大事なのは、内面から出てくる「やる気」だ。今回の本のタイトルにもした「モチベーション 3.0」は、「やる気」を意味している。

 「モチベーション 1.0」は「生存」すること。「モチベーション 2.0」は「アメとムチに基づく動機づけによるもの」だ。これはルーチンワーク中心の時代には効き目があったが、21世紀を迎えて機能しなくなった。

 やる気について話す前に。お金の話をしよう。まず、ビジネスパーソンに十分な報酬を与えることは重要だ。もしビジネスパーソンが、自分の労働に値する十分な報酬を得られていないと感じると、働く意欲は湧いてこない。解雇されない程度に最小限の仕事をするだけだ。しかし、報酬がすべてではない。

――お金さえ与えれば、ビジネスパーソンにやる気をすることができる、というのは神話ということ?

 ほとんどの会社が、モチベーション2.0レベルの古い動機付けの方法を使っている。つまりアメとムチを使う方法。創造性を要する高度な仕事に対しても、目の前にアメをぶら下げつつ、ムチを持って後ろに立つやり方をしている。その結果、ビジネスパーソンのやる気をうまく刺激できずにいる企業が多い。

報酬は、自律性を失わせる

――この方法はどうしてうまくいかなくなったのか?

 有名な実験を紹介しよう。幼稚園児を数日間観察して、「自由遊び」の時間に絵を描いてすごす子どもを見つける。この子どもたちを3つのグループに分ける。第1グループは、絵を描くと「賞がもらえると分かっているグループ」。2つ目のグループは、絵を描いても「賞がもらえることを知らないグループ」。そして第3グループは、絵を描いても「賞がもらえないグループ」だ。2週間後の自由時間に紙とペンを用意して、研究者はひそかに園児たちを観察した。すると非常に興味深い結果が出た。「賞がもらえることを知らないグループ」と「賞がもらえないグループ」の子どもたちは、前回の「自由遊び」の時間と同じくらい熱心に絵を描いていた。いっぽうで、賞をもらえることが分かっており、そのとおりにもらえたグループは、絵を描く時間がかなり減った。

――これはどのように解釈したらいいのか。

 報酬によって、遊びが仕事に変わったということだ。つまり、「これをしたら、あれをあげよう」という交換条件つきの報酬は、「自律性」を失わせるというマイナスの影響を及ぼした。

罰金が遅刻を増やした

――目標設定は人生において重要だと思う。これが、かえって逆効果になる場合がある?

 自分に対して自分で目標を設定する場合はよい。だが、上司や他人から課された目標は注意が必要だ。例えば売り上げの目標を考えてみよう。他人がノルマを設定すると、不正を働いてもその目的を達成しようとする者が表われる。ノルマを達成するために、販売スタッフが、顧客に提供してもいないサービスや品物を水増して売り上げを計上するなどのケースが生じる。

――ほとんどの企業が、アメとムチという昔ながらの方法を使っている。なぜ、その方法はうまくいかないのか?

 有名なロウソクの問題がある。木製の壁に接するよう配置したテーブルの上に、ロウソク、画びょう、箱に入ったマッチを用意する。実験の参加者は、ロウがテーブルに垂れないように、ロウソクを壁に固定しなければならない。5〜10分するとほとんどの人が解決策を思いつく――ロウソクの箱を画びょうで壁にとめ、その中にロウソクを立てればよい。これは固定観念からいかに脱却するかを問う実験だ。

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著者プロフィール

大野 和基(おおの・かずもと)
ジャーナリスト

大野 和基

1955年兵庫県西宮市生まれ。大阪府立北野高校卒。東京外語大英米学科卒業後、79年渡米。在米18年。米コーネル大学で化学、ニューヨーク医科大学で基礎医学を学んだ後、ジャーナリストの道に進む。以来、国際情勢の裏側や医療問題に関するリポートを発表するとともに、ヘッジ・ファンドの帝王ジョージ・ソロスや元CIA長官、映画監督マイケル・ムーア、えひめ丸事件の乗客、北朝鮮に拉致された曽我ひとみさんの米国人夫ジェンキンス氏の家族など、要人・渦中の人物への単独インタビューを次々とものにしてきた。単独での海外現地取材が圧倒的に多く、年間フライト数は80回を越える。翻訳『外科の夜明け』(小学館)があり、2009年5月17日に書き下ろしで『代理出産―生殖ビジネスと命の尊厳』(集英社)を発売。



このコラムについて

ダニエル・ピンクの「やる気の研究」

 米国人ジャーナリストのダニエル・ピンク氏は、アル・ゴア米副大統領の首席スピーチライターを務めたことで知られる。「ワシントン・ポスト」や「ニューヨーク・タイムズ」で、経済動向やピジネス戦略について健筆をふるっている。

 同氏が2010年7月、「モチベーション3.0 持続する『やる気!』をいかに引き出すか」を出版した。金銭的な報酬は、ビジネスパーソンのやる気を高めるのか?お金以外に、何がやる気を刺激するのか?膨大な量の学術論文を読破した後に彼が得た答は?

 ピンク氏へのインタビューを2回に分けて紹介する。

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