「ダニエル・ピンクの「やる気の研究」」

責任を伴う「自由時間」が自律と創造をうながす

グーグルの「20%タイム」は有効

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2010年7月28日(水)

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――前回は、仕事に対して必要以上の報酬を与えると、それがかえってビジネスパーソンのやる気を削ぐ可能性がある、という話を聞いた。特に創造性が要求される複雑な仕事において、お金は動機付けにならないと。

ピンク 自律性(autonomy)がないと創造性は出てこない。この自律性、自主性を“自由”とはき違えてはならない。あくまでも、きちんと結果を出していれば、「何時に会社に来る」とか「何時まで居ないといけない」とかいう規則は意味がないということだ。

 これをROWE(Results Only Work Environment)、すなわち「結果志向の職場環境」と呼ぶ。これを生み出したのは米ベストバイという米国の家電量販店最大手だ。この会社には出社時刻の決まりはない。会社に居なくてもいい。2〜3日まったく会社に来ない社員も居るくらいだ。まるで我々フリーランサーのような働き方である。中小企業ならともかく、Best Buyのような大企業では非常にラディカルなことだ。

――自由にはお金に換えられない部分がある。組織に入って、少々の額を積まれて「規則正しく勤めよ」と要求されてもまったく関心が持てない。

 実際のところ、ROWEで働いているある社員を「2万ドル年収を増やすから来てほしい」と他社がヘッドハンティングしようとしたが、その社員は転職しなかった。昇給よりも自由の方が、はるかに価値があると思っていたからだ。だから、十分な収入を与えていれば、その後は、報酬を増やすことよりも自由を増やすことの方が動機付けになる。こういう社員のほとんどはソフトウエアの開発やデザインなど高度で複雑な仕事をしている。

――日本には、残業することで、一生懸命仕事をしているふりをしている人がけっこう居る。企業がROWEを導入すれば、残業は意味がなくなる。

 その通り。結果を出すことが重要だから、残業することに意味はない。残業は、仕事が遅いことを示す象徴みたいなものだ。

 米国のように家族生活を大切にする国では、子どもの野球の試合に何も気にせずに応援に行ける。就業時間が決められている仕事であれば、午後3時に職場を離れただけで、怠け者であると思われるかもしれない。そういうことに一切気を遣う必要がないので、仕事に集中できる。自由を与えることがどれほど重要かが分かるだろう。

――私の知人に米グーグルで働いている人がいる。彼は、勤務時間の20%を自分の好きなことに当てている。

 「20%タイム」と呼ばれるものだ。驚くべきことは、グーグルの新サービスや商品の半数以上が、この時間から生み出されていることである。グーグル・ニュース、最近利用者が急増しているGメール、グーグル・トーク(インスタント・メッセンジャー)、グーグル・トランスレート(モバイル機器専用の翻訳ソフト)なども、すべてこの「20%タイム」から生まれている。

 「20%タイム」が有効であることは科学的にも明らかだ。すなわち、封筒詰めのような単純作業は、「交換条件付報酬」つまり「封筒詰めを1枚やればいくらあげる」という報酬を与えればうまくいく。しかし、内容が複雑で、創造性が必要な仕事において「交換条件付報酬」はうまくいかない。モチベーション2.0に位置づけられる「アメとムチ」を使っても、「もっと、アメが必要だ」とか「ムチが必要だ」とかばかりに神経がいって、肝心の創造性にはまったく効き目がない。間違った方向に行ってしまう。いっぽう「20%タイム」は今やっている仕事に関係がないことをやってもいい時間。なので、創造力が無制限になる。そのとき初めて、画期的なことが頭に浮かぶようになる。

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著者プロフィール

大野 和基(おおの・かずもと)
ジャーナリスト

大野 和基

1955年兵庫県西宮市生まれ。大阪府立北野高校卒。東京外語大英米学科卒業後、79年渡米。在米18年。米コーネル大学で化学、ニューヨーク医科大学で基礎医学を学んだ後、ジャーナリストの道に進む。以来、国際情勢の裏側や医療問題に関するリポートを発表するとともに、ヘッジ・ファンドの帝王ジョージ・ソロスや元CIA長官、映画監督マイケル・ムーア、えひめ丸事件の乗客、北朝鮮に拉致された曽我ひとみさんの米国人夫ジェンキンス氏の家族など、要人・渦中の人物への単独インタビューを次々とものにしてきた。単独での海外現地取材が圧倒的に多く、年間フライト数は80回を越える。翻訳『外科の夜明け』(小学館)があり、2009年5月17日に書き下ろしで『代理出産―生殖ビジネスと命の尊厳』(集英社)を発売。



このコラムについて

ダニエル・ピンクの「やる気の研究」

 米国人ジャーナリストのダニエル・ピンク氏は、アル・ゴア米副大統領の首席スピーチライターを務めたことで知られる。「ワシントン・ポスト」や「ニューヨーク・タイムズ」で、経済動向やピジネス戦略について健筆をふるっている。

 同氏が2010年7月、「モチベーション3.0 持続する『やる気!』をいかに引き出すか」を出版した。金銭的な報酬は、ビジネスパーソンのやる気を高めるのか?お金以外に、何がやる気を刺激するのか?膨大な量の学術論文を読破した後に彼が得た答は?

 ピンク氏へのインタビューを2回に分けて紹介する。

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