これまでのあらすじ
ヒノハラ社長の団達也は、会社を日野原太郎に譲り、自身はヒノハラを辞めて新しい事業を始めようと考えていた。
達也のビジネスモデルは、金子順平が開発した製品を日本で量産し、上海にあるリンダの会社に輸出し中国の主要メーカーに販売。出資はジェームスに頼み、3年後をメドに株式公開するというものだった。
達也は、リチウムイオン電池の性能を高める金子の発明「KO1」を、達也と真理の会社MTCで特許申請することを考えていた。
シンガポール
リンダとジェームスと別れたあと、達也と真理は夜のオーチャード通りを歩いた。達也にとってシンガポールは、いい意味で緊張感のない気の休まる街だ。しかし、真理はやるせない思いでいっぱいだった。
「くやしい」
そう言って真理は突然立ち止まった。大きな目には涙があふれていた。言葉も分からない。得意のつもりだった会計もダメ。それでも、新会社のCFOになるつもりでいた。達也に付いていけば何とかなると思っていた。お笑いと言うほかない。
(あの人の言う通りだわ)
と、真理は思った。リンダのことだ。この際、身を引くべきなんだろう。ここには私の居場所はないんだわ。そう思うと、無性に悲しくなった。
「真理ちゃん」
達也は真理の肩をやさしく抱いた。
「もし、きみが英語が話せないことや、国際会計の知識が少ないことに負い目を持っているとしたら、それこそ自分を買いかぶっているんじゃないかな」
真理には達也が言わんとしていることが理解できなかった。
「リンダはね。きみの何倍もの努力をしてあそこまで成長したんだ。彼女は弱音を吐かない。あの完璧な日本語も、大学に入ってから勉強したんだし、会計だって、金融を勉強するためにシンガポール大学ではじめて学んだんだ」
「でも、あのひとは頭がいいから…」
真理は寂しげに言った。
「それは違う。何かをモノにしたければ時間がかかることを覚悟しなくてはならないんだ。もしきみが彼女より能力的に劣っていると思うなら、彼女の2倍でも、3倍でも勉強量を増やせばいい。それだけのことさ」
「でも…」
「じゃあ、ひとつ例を挙げようか。きみはIFRSの勉強を始めた。同じように、リンダも勉強を始めたんだ。彼女はIFRSがメーカーに配慮がないことに気づいた。連結決算ならまだしも、単独決算にもIFRS適用することになったらどのように対応すればいいのか。リンダはそこまで考えていた」
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