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ゆったり、のんびりは背中で探す

【五感と期待編その3】体感と響き合うデザインを考える

2010年9月1日(水)

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 僕は無類の温泉好きである。特に広々と屋外に設えられた露天風呂には大きな「期待」が膨らむ。生来のひねくれた性格のせいか、四季折々の季節の中でも、おかしなことに小雪舞う極寒の冬場とか雨風が強く荒れた天候の宵など気候が厳しい時にこそ露天風呂に入るのが実に感動的だと信じ込んでいる。

 「不安」が大きいほど期待感も膨らむというエクスペクトロジー(期待学)の法則が、極めて個人的にだが、ここでもしっかりと根を生やしている。

 寒風の中、恐る恐る露天風呂目指して屋外に出る。冷え切った足下の石畳の感触や体中を吹き抜ける冷感がまさに体感的な不安を募らせる。それを押し殺すように、やがて訪れるはずの感動に身を託して歩を進める。顔を直撃する風雪や秋雨など苦にもせずに、おずおずと湯船に浸かる瞬間ほど至福の時はないと感じる。

 おそらく僕のような温泉フリークを虜にすることはもとより、湯治客への期待感高揚を企む温泉宿の経営者が様々な知恵や工夫を凝らし、そのうえに経験則という隠れた技まで繰り出して、周囲を銘石や奇岩で彩り、あたかも大自然に抱かれているかのような醍醐味を持つ露天風呂の空間デザインをまとめあげていったに違いないと勝手に憶測したりしている。

露天風呂で発見した“入浴規則”

 やがて、そうした露天風呂通いが講じて、様々な湯治客の入浴シーンを眺める内に人々の行動の面白い傾向に気がついた。たかが露天風呂とは言え、実に様々なユーザーの立ち居振る舞いを注意深く見つめ、その背景に横たわる不安や期待にまつわる心理などを密かに洞察などしてみると、これはこれで案外面白いものだということが分かってきた。

 温泉という非日常的な舞台設定のおかげで、普段は気づけない人々の意外な行動や様々な心理の断片が見え始めてくる。人間の行動を科学する上でも、大いに役立ちそうな気づきが転がっている。そして、それらの気づきはエクスペクトロジーの観点から見てもたいへん面白い性格のもので、五感を意識しながら期待をデザインするという目的からも新たな発見や展開がありそうだということが予感できた。

 そこで、じっくりと腰を据えて露天風呂を楽しむ人々を観察し、期待と不安が紡ぎ出す入浴を巡る行動や、ゆったりと時間を過ごす際の心理状況などを僕なりの視線で観察し、解析してみることにした。

 今回は、そんな成果の1つを紹介しよう。例えば湯治客の多くは浴室内でいったん汗を流し、湯船に浸かって一度暖をとってから、やがて戸外の露天風呂へと出て行くのが大方の成り行きである。もちろん、夏場はいきなり屋外に出るケースも多く見られるが、冬場は必ずといっていいほど室内風呂で一息ついてから露天風呂に興じようとする傾向が顕著だ。まるで一人ひとりが快適に向かう自分のシナリオを持っているかのように、自らが決めた温泉の楽しみ方に取って、規則正しいシーケンシャルな入浴行動をこなしているかのようだ。

 そして、露天風呂を目指す湯治客の多くが戸外に出て来るなり、素早く辺りを見回して、自分が入湯するならここが良さそうだと思える「空き屋」(僕は勝手にそう感じている)を露天風呂の広がりのある空間から探し出そうとする。

 そこには自らの「快適体感」という期待達成にふさわしい空間をどこにするかの狙いがある。だから、あの辺りが良さそうだなといった感じをつかむと、そそくさと目指す場所に立ち込んでゆっくりと腰を下ろす。そして、大概は深く大きなため息に似た吐息をする。

 こうした一連の流れの中で、一つ気になる行動を見かけた。自分の場所と仮決めした場所に座り込んだ途端に、ほとんどの客が自らの背中を使って周囲の岩石と居心地を巡る「対話」を始めることだ。

 大多数の人(と言っても僕が知っているのは男性に限るが)は自分の気に入った居心地感が得られるまで、彼の背中全体を駆使して、姿勢を変えたり位置を少しずらしてみたりと忙しく探索する傾向があることに気がついた。やがて背中のおさまり具合というか、体幹が心地よく落ち着きそうな空間を見出すと今度はその体勢に見合った足のやり場や手の置き場所を固めに入る。

 まさに最初の「不安」が「期待」を導き、最初に達成された「期待」が再び次なる「不安」や「期待」のスイッチを探し始めるというやつだ。こうした「期待」を巡る心理はさらなる「期待」の上昇を目指して我々自身を巻き込んでいくといった、実に興味深い精神的なメカニズムを図らずもこの行為が指摘している。

 考えてみると我々の「期待」には際限がない。限りなく天井知らずと言える。しかも不安定でもある。少しでも特定の「期待」を取り巻く状況や条件が変わるとすぐに心変わりして、変質してしまう。なかなか一筋縄では捉えにくいやっかいな心の有り様ではある。そういった観点に沿って考えを整理してみると「期待」することにおいては、期待した本人にも随分と変化に富んだ刺激的な心持ちをもたらすものであることが容易に想像できる。

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