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「香り」「匂い」をカタチにすると、どうなる?

【五感と期待編その4】嗅覚と印象の関係について研究する

2010年9月8日(水)

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 「あの時の香りを覚えていますか?」

 小学生の頃、配膳当番でちょくちょく給食室に出入りした。給食室に漂う様々に入り混じった匂いは、40年以上経た今でもかなり鮮明な記憶として蘇る。

 そんなふうに当時の木造校舎の匂いも覚えているだろうか? 気になって、もはや幽かになってしまった当時の記憶を頼りにぼんやり振り返ってみる。

 僕が嗅覚に対して執着する性質だから、というわけでもないだろうが、我々はふとした時に急に臭気の存在が気になり出して、懸命に匂いを嗅いだりすることがあるように思える。今でも覚えている映像を頼りに現存しない校舎の配置や構造を思い出そうとした。かつてそうしたように忘却の廊下を歩いて行く。「そうだ、確かそんな匂いがしたっけ」。

 言葉で表そうにもうまく言えそうにないのだが、少しずつその頃気になっていた保健室や放送室の匂いも記憶のスクリーンに映り始めた。意外と思い出せる感覚もあるものだと驚きつつも、記憶の引き出しが持つ柔軟なメカニズムに少しだけ不思議な感動を覚えた。

ユニバーサルデザインの開発がきっかけ

 本で学んだことだが、幼い頃に体験した匂いや香りは、時として恒久的に覚えているものもあるらしい。嗅覚は、五感に働く遺伝子の数が多いことから、ほかの感覚に比べて比較的長い時間我々の記憶の中でその記憶を維持できるらしい。

 エクスペクトロジー(期待学)は使い手の感性を予測的に捉えるところに発想の起点を置いている。ヒューマンウエアという人間の行動や心理に関わるメカニズムを研究しながら、そこから発想され、あるいは関わりが始まるソフトウエアについて考察し、それらの過程を通じて使い手から求められ、導き出されるであろうハードウエアに関して、デザインの持つ意味やモノづくりあるいはサービスの有り方を独自の感性研究に立脚して探っていこうとする考え方である。

 そうした視点に立ったエクスペクトロジーの研究を進める過程でモノづくりやデザインと五感の恒常性(ホメオスタシス)の関係性に少なからず興味を持つ様になった。そんな心境に至った理由の一つには、僕が1990年代初頭からもっぱらユニバーサルデザインの考え方を研究して来たことが影響しているのかもしれない。

 この20年来、先進する高齢社会の中で、いかにして多様化する使い手の要求を可能な限り正確に捉え、モノづくりができるかということに専念してきた。様々なユーザーの個性や生活習慣を理解し、その行動や心理を深掘りすることは、そうしたデザインプロセスにおいて重要な意味を持っていた。そんな中、調査で関わりを持った人々の様々に個性的な五感の広がりに驚かされることも多かった。

 ユニバーサルデザインの製品を開発する過程では、毎回、実にたくさんのユーザーの方々に話を伺う機会に恵まれる。ある時、製品デザインのユーザー評価をする中で視覚障害を持たれた方が、ものの見事に一般の調理用レンジを使って、さくさくと天ぷらを揚げたりするのを拝見して度肝を抜かれたりした。その姿には僕など比べものにならないほど、自らを取り巻く外界からの様々な情報に鋭敏に反応する見事さがあった。

 ご本人から「普段からやっていますから」とさらっと答えられても、そこまで視覚以外の感覚を鮮やかに鍛えて生活に順応されている様子を見るにつけ、いささか驚きを禁じ得なかった。そうした方々のお話を伺っていくと、五感の中で、たびたび嗅覚の話が出てくる。漂ってくる香りや匂いを巡る様々な経験談も、想像もつかないようなユニークなとらえ方をされていたりして、実に示唆に富んだ面白いお話を多く聞かせていただいた。

 そんなことも手伝って五感の中でも嗅覚とデザインのかかわりという、それまでは気にも掛けていなかった関係に強い興味を持つようになった。確かに僕がデザインを学び始めた頃には五感、ましてや嗅覚とデザインなどといった話が正面切って話題になることもなく、当然、大学での課題や授業などで耳にすることもなく、もっぱら視覚情報とデザインなど専門用語にしかお目にかからなかった。視覚以外の五感と言えば、若干、人間工学といったテーマが話題になりかけており、そうした工学的研究が例えばハンドルの握り心地や、イスの座り心地と言ったテーマとしてデザインを巡る話題に上がる程度であったと記憶している。

香りと音声を結びつけた「聞香」

 ところで、我々は普段、嗅覚を表現するうえで「匂い」と「香り」という2つの言葉を使い分けている。ほかの日本語の表現同様、最近ではその使い分けの境界線が曖昧になってきているものの、かつては明確に意識分けされていたように思う。

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