「河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学」

「自殺大国」に甘んじるニッポン株式会社の“異常”

顔の見えるつながりが命を救う

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2010年9月2日(木)

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 今年もまた、“あの数”が3万人を超えそうである。

 政府が3月にキャンペーンを実施したかいもあってか、4月と5月の数字は昨年を1割程度下回った(関連記事:彼女は追いつめられ、“命”を削るまで働いた)。しかし6月以降は元に戻り、7月末までの累計は1万8848人。昨年より若干少なく、一昨年と同程度のペースだ。

 このまま進めば、今年もまた3万人を上回ってしまう。「自殺大国ニッポン」。そう呼ばれても仕方のない数字である。

 周知の通り、日本では1998年を境に自殺者の人数が急増した。1998年といえば、北海道拓殖銀行、山一証券、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行など金融機関の破綻が相次いだ年だ。企業の倒産件数も負債総額も90年代で最悪を記録した。

 98年には2万3000人だった自殺者の人数は、99年に3万1000人と一挙に35%も増加した。その後、12年連続で3万人超えが続いている。

 1日当たり約90人。世界保健機関(WHO)の統計では10万人当たりの日本の自殺者は24人(2008年)。米国の11人(2008年)の2倍を上回る。経済協力開発機構(OECD)加盟国16カ国の中では韓国に次いで2位。男性に限れば1位の「自殺大国」だ。

 年齢別では総じて中高年の自殺率が突出しているが、最近では20代や30代の自殺も目立つ。ところが、こうした実情とは裏腹に、「自殺者が多い」という実感を持っている人は少ない。

 恐らく身近な“誰か”が犠牲者にならない限り、「年間3万人」や「1日当たり90人」といった驚くべき数字をいくら連呼されても、対岸の火事としか感じられないのだ。

自殺と温暖化の共通点

 思い起こせば、温暖化対策も最初は対岸の火事だった。

 今でこそどこの会社も当たり前のように、「我が社はクールビズを徹底しております」と冷房の温度を28度に設定し、「我が社は再生紙を利用しております」と厚さの薄い名刺を使用し、「我が社は地球に優しい会社です」と環境問題に取り組んでいることをやたらとアピールする。

 だが1990年代初頭に欧米で環境問題が活発に議論されている頃、日本人のほとんどは無関心だった。異常気象や温暖化に関する講演が開かれても、注目されることはなかった。日本国民にとっては他人事だったのである。

 潮目が変わった。そう私が感じたのは、2000年の東海豪雨の時だったと思う。ナゴヤドームで行われる予定のプロ野球の中日・広島戦が中止になった時の豪雨といえば、思い出す人も多いだろう。この時は甲子園球場で予定されていた阪神・巨人戦も中止になった。巨人の選手たちを乗せた新幹線の列車が立ち往生して、試合に間に合わなかったからだった。

 東海豪雨の後、私はたまたま名古屋で温暖化に関する講演を行った。その時の聴衆の関心の高さといったら半端じゃなかった。

 「あの豪雨はどうして起きたのか?」「地球の温度は上昇しているのか?」「私たちにできることはあるのか?」……。矢継ぎ早に質問が飛んでくる。

 家屋が倒壊して数多くの犠牲者が出たあの豪雨は何だったのか? この答えを誰もが知りたがっていた。そして、自分たちに何かできることはないかと、懸命に探し求めていたのである。

 炭酸ガスによる温室効果現象は、スウェーデンの科学者であるスヴァンテ・アレニウス(電解質溶液理論の研究で1903年にノーベル化学賞を受賞)が発見したとされている。

 第二次産業革命期の1896年。彼は空に広がる黒煙を眺めながら、「数十年後、この煙によって地球の天気は大きく変わってしまうはずだ。しかし、多くの人がそれに気づいた時には既に手遅れになっているだろう」と言い残したという。

 ちなみに最近は、温暖化現象が人為的に引き起こされているとする説に異論を唱える学者もいるが、だからといって人為的に排出された二酸化炭素の影響がないことを実証する根拠はどこにもない。

自殺は社会が犯した殺人

 何年か後、現在の温暖化への対応と同様に、「我が社は自殺者を一人も出しません!」とスローガンを掲げるのが普通になった時、自殺者の人数はどこまで増加しているのだろうか。

 「いやぁ、温暖化と自殺じゃ次元が違うでしょ? だって、自殺は個人の問題でしょ」

 このような指摘をする人もいるだろう。だが、自殺は社会が犯した殺人である。

 こう断言すると、コメント欄は賛否両論が入り乱れて荒れに荒れそうだが、少なくとも1998年以降に急増した1万人は、社会の変化によるものだと言える。

 「夜回り先生」として知られる花園大学客員教授の水谷修氏も、次のように述べている。

 「リストカットする子どもたちは誰一人として、最初からそういう子どもだったわけじゃない。ストレス社会でイライラした大人たちが、それを子どもたちにぶつける。その結果、子どもたちは傷ついていく。会社でストレスがたまった父親は、母親を家庭で怒鳴り散らす。家庭にイライラが伝染するんです。誰からも褒められたことがない。誰からも認められたことがない。そんな子どもたちは、自分を肯定することができません。自分は生きている意味がないと、自ら命を断とうとするのです」

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著者プロフィール

河合 薫(かわい・かおる)

河合 薫博士(Ph.D.、保健学)・東京大学非常勤講師・気象予報士。千葉県生まれ。1988年、千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。2004年、東京大学大学院医学系研究科修士課程修了、2007年博士課程修了。長岡技術科学大学非常勤講師、東京大学非常勤講師、早稲田大学エクステンションセンター講師などを務める。医療・健康に関する様々な学会に所属。主な著書に『「なりたい自分」に変わる9:1の法則』(東洋経済新報社)、『上司の前で泣く女』『私が絶望しない理由』(ともにプレジデント社)、『<他人力>を使えない上司はいらない!』(PHP新書604)



このコラムについて

河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学

上司と部下が、職場でいい人間関係を築けるかどうか。それは、日常のコミュニケーションにかかっている。このコラムでは、上司の立場、部下の立場をふまえて、真のリーダーとは何かについて考えてみたい。

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