「“しーマン”の独立独歩」

はじめまして…独立していることの意味って何だ?

文明人が孤島でサバイバル生活を強いられたとき感じるめまい

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2010年9月2日(木)

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 自分は何を目的に独立して社長をやっているんだろう、と思うことが最近多い。

 ビジネスパーソンである読者の方々の多くが「自分はいつまでサラリーマンをしているのだろうか?」と漠然と疑問に思うのと同じである。

 僕にとって社長業というのは必要悪であった。自分が作りたいゲーム作品を開発するために、いたしかたなくやってきた。僕はもうすぐ48歳になるが、脱サラして独立してからおよそ17年、ずっと社長という「分の悪い仕事」をしてきたことになる。

 社長という職業、社会的な響きはいいかもしれないが、一言でいうならば体のいい雑用だ。実はかつて僕は日経BP社さんから、ベンチャー・オブ・ザ・イヤー若手経営者部門賞というたいそうな賞をいただいたことがある。ゲーム内のあちこちに広告スペースを作って入れたことが評価されたが、そんなことも資金繰りの必要に迫られてやったことにすぎない。そもそも中小のゲーム会社の社長なんてのは、コンビニ弁当を主食とし、会社のソファをねぐらにすることを運命づけられた職種である。さらに言えば、育ったと思った人材はとっとと辞めていってしまう業界なもんだから、社員に給料を払いながら社会適応の授業をしているような割の悪さがある。

中小企業の社長が直面することとは?

 社内のパーティーに向けて「ボンゴレのパスタをつくるからアサリの買い出しを頼む」と金を渡したら、「これしかなかった」とハマグリを買ってくる、いわゆるR25世代を雇い集めて利益を出さなければならない現実…これが僕のゲーム会社の現実である。メーカーといったって水商売だからヒットを逃したら担保となっている自宅を失うだけだ。この“めまいがする日々”の実態は、文明人が孤島でサバイバル生活を強いられたときのそれに似ている。信じがたいような事件を、就業経験の浅い若手社員たちが日々起こしてくれる中小企業という環境は、だから、一度でも大企業に居たことのある人なら誰しもが「なんでそうなるねん?」とこの理不尽さにめまいがするところなのである。

 こういうストレスフルな日々のせいで免疫力が低下するのを実感するうち、「いつまでこんな生活を続けるのだろうか?」という冒頭の疑問が湧いてきたわけです。

 そんな疑問への答えなど出ているわけがない。にもかかわらず、そんな僕がどういうわけだか、いまサラリーマンをやっている30代後半くらいの人たちからよく相談を受ける。「これから先どうしたらいいのでしょうかね?」と。「そんなことなんて知ったこっちゃない」。それが率直な答えであるが、たまにそういう彼らと飲みながら自分の体験談をしていると、彼らはたいてい大笑いして話に食いついてくる。

 確かに17年間も会社が続いてきたのだから、僕の経験談は失敗談とは言い切れない。が、孫正義のような成功談ともほど遠い。そこにあるのは「独立すると遭遇する、めまいがするような苦労談」とでも言いましょうか…

 もしかしたらこれは表現者の最大の弱点ではないかとも思うのだが、「面白い」と言われると、ついぞ「こんなことで喜んでくれるならば」と話してしまう…これがこの連載開始の経緯である。

メーカー指向型独立のリスク

 自分で事業を始めるならば、株式公開くらいは狙いたい。が、わずかな貯金や早期退職の奨励金を失うのも怖い、とも思う。要するに40代になって何か始めるのに体と時間を浪費したくないというのが“しーマン”の本音だろう。

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著者プロフィール

斉藤 由多加(さいとう・ゆたか)

ゲームクリエーター。
ゲーム開発会社、ビバリウムの代表取締役社長。
 ゲーム「シーマン〜禁断のペット〜」「ザ・タワー」「大玉」などで文化庁メディア芸術祭をはじめ国内外で受賞多数。著書に「ハンバーガーを待つ3分間の値段」(幻冬舎刊)、「シーマン語録」(ダイアモンド社刊)、「マッキントッシュ生誕の真実」(毎日コミュニケーション刊)、「林檎の樹の下で〜アップル日本上陸の軌跡〜」(毎日コミュニケーション刊)など。2010年9月から、携帯電話とtwitterを使ったサービスを提供するマインドスコープの代表取締役会長を兼任。twitterのIDは@YootSaito



このコラムについて

“しーマン”の独立独歩

 40代の男性サラリーマンを繁華街のギャルたちは隠語で“しーマン”と呼んでいる。世界不況の中、大量雇用の象徴と言えるこのしーマン世代がもしいまから独立起業したら、どんな事態に直面するのか?
 大企業に勤務していると決して経験することのない会社操業の実態を、人気ゲーム「シーマン」の作者でありゲーム開発会社の社長である著者が、体験談を交えてつづるエッセイ。

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