• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

手に職がないこと

言葉のトリックの仕業について考えてみた

  • 斉藤 由多加

バックナンバー

2010年9月16日(木)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 「ずっと大手企業の営業職だったせいで何も専門がないんですが、独立するにはどうしたらいいでしょぅか?」

 行きつけのバーでそんな相談を受けたことがある。

 「ふーむ……」

 考え込んでしまった。もっともな話だが、しかし、どこかに違和感がある。それはなんだ? と。

 大手企業から独立して仕事がうまく行き始めると、この手の相談は後輩から山のようにくる。自分もそうだった。中でも多いのは「営業ばかりやってきたから、自分には手に職がない」という相談。

 確かに営業というのは、扱う商品や業種が変われば、それまで築いた人脈もゼロリセットだし、ゲームや書籍や映画や音楽のように実績を形として残せるものでもない。なにせ売るのが「営業」なのだから、その後に何か形が残ること自体があり得ない。

 「……しかし、だからといって、手に職が無いということなのだろうか?」

 そんなことを考えているうちに、はたと気付いたのである。「営業」などという職種名を名乗っているからそう思えてしまうのだ、と。

 営業というのは、そもそもプロセスとか行為の名前であって、成果物の名前ではない。スポーツ選手に練習は不可欠だが、だからといって「練習者」であってはならない。練習はあくまで練習なのであって職業名は「野球選手」である。

 それと同じで、営業マンの本当の仕事は、「営業」と考えてはよろしくないのではないか? 「営業」と呼んでいるから、自分の本当の専門性が見えなくなっているのではないだろうか、と。

 最近、コーチングという言葉をよく目にする。本もたくさん出ている。

 このコーチングというのは、そもそもはスポーツの世界で培われた概念だそうで、その人その人の良いところをみつけてやって自信を持たせ、良いところをどんどんと伸ばしてやる、という仕事。そのプロセスの手法をビジネスに応用した新しい分野名がコーチングというわけだ。

 分野名としては新しいが、実はこういうコーチ的人物は、どこの企業にもたくさん居たはずだ。彼らがあの手この手を駆使して出来の悪い新入社員をいっちょまえの営業マンに養成してきたはずである。そういう、実は昔からある行為でも、しっかり体系化し、そこに新しい名前を付けると新しい専門分野となる。そしてそこに第一人者が誕生する。

 例えば、ロックギタリストの物まねをして飛んだりはねたりする行為は誰しもがやっていたことだけれど、そのかっこよさを世界大会で競う、なんてばかばかしい発想は最近までなかった。そこに「エアギター」などという名前が付いて認知されてしまうと、そこにはエアギターの権威が生まれる。事実、それで有名になった人物も日本に居る。

 もう一つ例を挙げてみる。こちらは産業界の話だ。

 「私たちは偉大なるシロウトだ」という言葉を聞くことがある。ゲームはつくれないが、「やること」にかけては誰にも負けない、なんてのがそれに当たる。そういう人たちが「デバッグの受託業」とか「チューニング調整の請け負い業」という、それまで単体では仕事になり得なかった職業をつくり出した。今では立派に公開企業に成長した企業もある。

 そういう「出口からの発想」で、冒頭の「営業なので手に職がない」という悩みを振り返ると、実はそれが言葉のトリックの仕業であるように思えてきた。

 「営業ってつまるところは、その商品を欲しがる人を探すのがうまい、とか、欲しい気持ちにさせるのがうまい、とか、あるいは、だますのがうまい、とか、そういうことでしょ?」

コメント9

「“しーマン”の独立独歩」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック