「すべては倉庫番が知っている」

物流の「見える化」で何が見えたか?

国内では在庫が少ないメーカーが、海外では多くの在庫を抱えている

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2010年9月21日(火)

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 SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)の第一歩は実態の把握、物流の「見える化」だ。見えないものは管理できないのだから当たり前に聞こえるかもしれないが、実際には物流の実態が見えていない企業はいまだにたくさんある。

 先進企業は1980年代後半から90年代初頭にかけて在庫の見える化に取り組んだ。まずは営業部門が抱え込んでいる在庫を吐き出させるために“商物分離”を行った。

 営業所ごとに置いていた在庫を引き上げて物流センターに集約した。それによって初めて日々の在庫量が明らかになり、物流センターの出荷データから実需の動向が把握できるようになった。

 その結果、過剰生産や全く売れていないアイテムの存在が丸裸になり、誰に強制されることもなく、工場は自ら作り過ぎを抑え、営業部門は“死に筋”アイテムの改廃に動くという効果が出た。

 ムダな在庫がなくなれば、その分だけ手元の現金が増加し、資金繰りは改善する。保管費や輸送費が削減されて利益率も向上する。ROA(総資産利益率)は大きく改善した。

課題は海外に散らばる在庫の管理

 現在は海外にある在庫の見える化がテーマになっている。グローバル化が大きく進んだことで、今度は海外の現地法人や販売会社が抱え込んでいる在庫を適正化する必要が出てきた。

 ただし国内と違って海外は在庫の集約に物理的な制約があるため、情報システムの力を借りて、世界中に分散している在庫の動きをリアルタイムで把握できる仕組みの構築が進められている。

 その進捗の度合いがリーマンショック後の世界同時不況では、各メーカーの業績に大きく影響したとされている。見える化の進んだメーカーは需要の急落をいち早く察知して、減産に先んじることができたというストーリーだ。

 しかし、それが真実かどうかは疑わしい。決算書ベースで見た時の日本の大手アッセンブリーメーカーの在庫量はリーマンショック直後の2008年度第3四半期末に大きく跳ね上がったが、同第4四半期末には平常レベルに戻している。

 つまり日系メーカーはリーマンショック後の急激な需要の減少に、わずか半年間で対応したことになる。それと比較すべき欧米メーカーのデータを筆者は持ち合わせていないが、日系メーカーの動きが機敏だったのは明らかだ。

 しかし、これを「見える化システムのおかげだ」とするのは無理がある。そもそも欧米の有力メーカーと比べて日系メーカーはグローバルな在庫管理システムの構築に出遅れたとされている。それなのに、なぜ欧米メーカーより変化に素早く対応できたのか。

 筆者の見聞きした限りでは、今回の不況をただごとではないと見た、経営者の直感が大きかったようだ。過去の出荷実績に基づく需要予測の結果など考慮せず、生産に急ブレーキを踏んだ。

 その対応に現場は追われた。各国のデータをメールでかき集めて、手作業で生産計画を修正し、力づくで調達にストップをかけた。データ分析などしている余裕はなかった、というのが多くの日系メーカーの実態のようだ。

 日系メーカーのグローバル在庫管理システムがいまだ完成途上にあることも現場の混乱を招いた一因かもしれないが、結果として欧米メーカーよりも相対的に傷が浅く済んだことをどう考えたらいいだろう。

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著者プロフィール

大矢 昌浩(おおや・まさひろ)氏

1964年、東京生まれ。日本大学芸術学部大学院修了。日経BP社発行「日経ロジスティクス」記者、流通専門誌編集長を経て99年、ライノス・パブリケーションズを設立。2001年4月に「月刊ロジスティクス・ビジネス(LOGI-BIZ)」創刊。同誌の編集発行人として現在に至る。2004年4月〜2007年3月、多摩大学大学院客員教授を兼務。



このコラムについて

すべては倉庫番が知っている

原材料の調達から工場での加工、店舗までの配送と、企業や産業のあらゆる活動を“裏方”として支える物流。ここからは、表層からはうかがい知れない経営や経済の動きが浮かび上がってくる。そこから見えてくる課題は、単なる物流改善に伴うコスト削減にとどまらず、企業に構造改革を促すテーマである。10年以上も物流業界を取材してきた筆者が、“倉庫番”だから知り得る日本企業の実像をリポートする。

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