「幸せな家庭はどれも似通っているが、不幸な家庭はそれぞれ違っている」。ロシアの文豪トルストイは『アンナ・カレーニナ』の冒頭にこう記した。
なぜ輝ける企業が衰退してしまうのか――。
「日経ビジネス」は10月4日号で「衰退に抗う不沈企業」と題し、特集記事で日本版「ビジョナリーカンパニー」の条件を探った。このビジョナリーカンパニーという言葉の細かい解釈は様々だが、要約すると「時代を超えて際立った存在であり続ける企業」となる。
着実に成長を続ける企業と絶頂から転げ落ちる会社の違いは何か。衰退する企業には一定の法則が見いだせるのではないか。これが特集のテーマである。
その特集の“ネタ本”にしたのが、このほど発売された『ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階』(日経BP社刊)だ。著者の米経営学者ジェームズ・C・コリンズ氏は多くの企業が、以下の5段階を経て衰退すると説いている。
1.成功から生まれる傲慢
2.規律なき拡大路線
3.リスクと問題の否認
4.一発逆転策の追求
5.屈服と凡庸な企業への転落か消滅
連動インタビューでは、日本の著名企業経営者がこの本をどう読み解いたかを探っていく。第1回に登場するのは、NHKの福地茂雄会長。『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則』(1995年刊、日経BP社)、『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』(2001年刊、日経BP社)の大ファンと語る福地会長に「読みどころ」を聞いた。
(聞き手は日経ビジネス記者、小笠原 啓)
――まずは、『ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階』を一読した感想から聞かせてください。
福地 この本には様々な企業のケーススタディが掲載されていますが、多くの経営者は恐らく、「ウチの会社は別だ」と感じるのではないでしょうか。しかしそう思ってしまったら、既にあなたの会社は転落の淵にいるのだと思います。
「ウチの会社に限って」と考えると、そこから問題が起きる
米IBMや米ヒューレット・パッカードのような大企業も、衰退の憂き目に遭っています。「ウチの会社に限って」と考えると、そこから問題が発生する。経営者としては常に、リスクを考えないといけません。

1934年6月11日福岡県出身、76歳。長崎大学経済学部を卒業し、57年アサヒビール入社。長く営業畑を歩み、99年社長、2002年会長兼CEO(最高経営責任者)に就任。2006年に相談役に退いた。引責辞任した橋本元一・前NHK会長の後任として、2008年1月NHK会長に就任、現在に至る。
(撮影:西田 香織、以下同)
「ビジョナリー・カンパニー」シリーズは米国企業を主に分析していますが、具体的な展開が多いので分かりやすい。日本企業にも当てはまるケースが、数多くあると思います。米国人の学者が書いた本ですが、違和感を持つことはほとんどありません。
――米経営学者ジェームズ・C・コリンズ氏は、企業が5つの段階を経て衰退すると、この本で説いています。
福地 私も同じように思います。コリンズ氏は「成功から生まれる傲慢」が衰退の第1段階だと言っています。まさにその通りでしょう。アサヒビール時代によく言っていたのですが、成功している会社ほど、その成功体験に依存したがるものです。
アサヒビールの「スーパードライ」の成功には、様々な要素が複雑に関係しています。天の時、地の利、人の和。どれが欠けてもあれほどうまくは行かなかったでしょう。当時アサヒビールが置かれていた環境を、極めて上手く活用できたからこそ大ヒットに結びついたのだと思います。
運が良かったことの否定から傲慢が生まれる
もちろん、環境が良くても成功するとは限らない。運をつかんだ努力は認めるべきでしょう。運やツキは神様が公平に与えてくれますが、それを逃すかつかむかは、日頃の努力がものを言います。
でも、運が良かったことを否定して、自分の実力“だけ”で成功できたと思いたがる人が多い。こうして、成功から傲慢が生まれるのです。環境に恵まれ、運が良かったと謙虚に受け止めなければ、それが失敗の第一歩になります。
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