「ハイ・サービスの世紀へ」

脅威のリピート率を生み出すネット通販の「紀伊国屋文左衛門本舗」

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2010年10月12日(火)

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 前回(「鮮度管理の徹底で躍進するネット通販の『紀伊国屋文左衛門本舗』」)、和歌山県湯浅町に本社を置く「とち亀物産」が2000年5月に開始したネット通販サイト「紀伊国屋文左衛門本舗」(楽天市場ヤフーショッピング)の取り組みを紹介した。当初は商品が全く売れず非常に苦戦したが、消費者の声を地道に聞き続け、取り扱う商品を徐々に地元産の生鮮食料品に絞り込んでいったのが成功の要因だ。

 しばしばあることであるが、地元産の生鮮食料品が遠く離れた消費地では大きな価値を生む商品である。ところが、これらの商品は、地元の住民にとってあまりにも日常的に食べられている。このため、それらの商品は生産者や親戚から譲り受けることがあっても、自ら食品スーパーマーケットなどでお金を出してわざわざ買って入手する価値ある商品としての認識がなかった。

 とち亀物産は、消費者との対話を通じて、どこでも買うことができる一般に流通する商品ではなく、地元でしか手に入らない希少価値ある商品を見出した。そこで、生産者と積極的に提携関係を構築し、販売する商品の品質管理と味を標準化するようにした。そして、地元で食べられているのと可能な限り同じ品質の商品を、宅配で一人ひとりの消費者に個別に低価格で提供できるようにしていったのである。

 このような地道な取り組みを10年間続けたことで、営業開始当初は全く売れなかった状況から、今では取り扱う商品数が1000を超え、かんきつ類だけでも30種類以上になった。売り上げも3億円に達した。さらに生産者から通常の流通経路に比べ割高で商品を調達し、消費者には高い品質の商品を一般の特売価格程度で販売し、自宅の玄関まで届ける仕組みを提供するサービスプロセスの中に作りこむことで、本業の食品卸業の売り上げの約1億7000万円を大きく超える事業に成長させることに成功したのである。

「首都圏の4人家族」がターゲット顧客像

 単に生鮮食料品を購入するだけでは、一般に地元の食品スーパーで多くの消費者は用が足りてしまう。わざわざネット通販で購入する必要はない。しかし、消費者にとって食料品であればなんでもよいというわけでもなく、時として、こだわってちょっと良いものを食べたくなる。また、購入する時間もない場合もあれば、食べたい食品が地元の食品スーパーなどで購入できない場合もある。買った商品が重く、家まで持ち帰るのがたいへんな時もある。様々な動機で人々は購入手段を無意識に選択しているのである。

 ネット通販には商圏がなく、一般の小売業のような立地の制約がない。商圏が全国津々浦々まで広がるが、このことは同時に全国に多くの競合他社を持つことを意味している。もし他の店舗と同じ商品を提供すれば、後は価格だけの競争になり、せっかく購入してくれた客を維持し続けることが非常に難しくなる。つまり、たとえウェブサイトへのアクセスが購入につながったとしても、その後にウェブサイトへ再来店してもらわなければ、客数が減り、いずれ事業を継続できなくなってしまう。

 また誰も知らない地方にある名も知れない小さな店舗をいきなり信頼する消費者は少なく、安心して購入してもらえるようネット通販事業を展開する店舗は努力しなければならない。なぜこの店舗で購入しなければならないのか、他の店舗と何が違うのかなどの情報を併せて提供しなければ、ウェブサイトにアクセスした消費者は簡単に商品を購入してくれない。

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著者プロフィール

内藤 耕(ないとう・こう)

工学博士、独立行政法人産業技術総合研究所サービス工学研究センター副センター長。サービス産業生産性協議会業務革新フォーラム推進委員会委員、日本小売業協会流通業サービス生産性研究会コーディネーター等を務める。主な著書に、『サービス工学入門』(編著、東京大学出版会)、『江戸・キューバに学ぶ“真”の持続型社会:資源制約を環境サービスで乗り越えろ!』(共著、日刊工業新聞社)、『サービス産業進化論』(共著、生産性出版)、『サービス産業生産性向上入門−実例でよくわかる!』(日刊工業新聞社)、『「最強のサービス」の教科書』(講談社)など。



このコラムについて

ハイ・サービスの世紀へ

産業活動の主役が製造業からサービス産業に移り、日本経済を支える大きな役割を持ち始めた。しかし、このサービス産業は、日々の生活を支える非常に重要な産業であるにもかかわらず、その生産性の伸び率は製造業に比べ著しく低い。これから本格化する人口減少の社会において、顧客満足の高いサービスを、より効率的に提供できる生産性向上が、産業界が直面するもっとも重要な経営課題となり始めるだけでなく、ここにきて多くのサービス企業がそれに向け経営の舵をきり始めた。
この動きがいよいよ顕著になり始めたことから、2010年が「サービス産業飛躍元年」になると、筆者は確信する。なぜ確信しているか、そして飛躍元年になる道筋とは。このコラムでは、サービス産業をよりよいものにしていくために、大きな成果を挙げているサービス企業の取り組みを分かりやすく紹介するだけでなく、それを幅広く横展開できるよう、その方法論の一般化にも努めていく。

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