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国際競争力ランキングに一喜一憂する必要はない

しかし日本の公的教育支出の低さが群を抜くのは問題

  • 吉田 耕作

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2010年10月14日(木)

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 今回は国際競争力と教育との関係について、手元にある統計資料を使ってお話をしたい。まず国際競争力に関しては、各国の国際競争力のランキングが毎年二つの機関から発表されるが、両者ともよくメディアなどで引き合いに出される。

 一つはスイスのビジネススクールであるIMD(経営開発国際研究所)であり、もう一つは世界経済フォーラムである。

 表1は最近4年間のランキングで、2つの機関から発表されたものをまとめたものである。 比較的高順位を維持し、日本との比較に参考としてよく用いられる国々を列挙した。

表1 国際競争力ランキング

  IMD(経営開発国際研究所) 世界経済フォーラム
2007年 2008年 2009年 2010年 2007年 2008年 2009年 2010年
日本 24 22 17 27 8 9 8 6
米国 1 1 1 3 1 1 2 4
スイス 6 4 4 4 2 2 1 1
スウェーデン 9 9 6 6 4 4 4 2
デンマーク 5 6 5 13 3 3 5 9
フィンランド 17 15 9 19 6 6 6 7
イギリス 20 21 21 22 9 12 13 12
フランス 28 25 28 24 18 16 16 15
ドイツ 16 16 13 16 5 7 7 5
シンガポール 2 2 3 1 7 5 3 3
香港 3 3 2 2 12 11 11 11

測る尺度を変えると全く異なる順位となることに注意

 この表を見ると、IMDと世界経済フォーラム(以下ただ単にフォーラムと略す)とではランクにかなりの差があるという事に気がつく。 特に2010年では日本のランクは全く異なる順位を示している。IMDでは27位なのにフォーラムでは6位なのである。これはどちらが正しくて、どちらが間違っているという問題ではなく、国際競争力という名の下に全く異なる尺度を用いたり、異なるものを測ったりした事を示しているにすぎない。

 例えば、IMDでは大分類では4項目、その中の小分類では20項目についてデータを取っているのに対して、フォーラムでは9分野90項目で評価されている。両者の結果が違って当然であろう。このデータに限らず、測る尺度を変えると全く異なるデータが得られ、異なる順位が出現してくる。このことは統計資料を読む時の大事な注意点である。

 両方のランキングにおいて、まず米国の国際競争力が2007年から2009年まで1位を維持し、2010年で3位に後退したが、これは2008年のニューヨーク発の世界同時金融危機の影響なのは分かるので、極めて順当のように思われる。

自由貿易をフル活用する小国にはリスクも

 一方、IMDのリストに載っている米国以外の国でランクが一貫して10位以内の国は、人口が1000万人以下の小国である事に注目したい。自由貿易がかなり徹底されてきた近年においては、人口が少ない国ほど、自国の一つ二つの得意な産業に全面的に集中する事によって、自由貿易の利点をフルに利用する事ができるようになった。しかし、その政策はその産業の市場の変化によって国際競争力が急激に変化するという、かなり大きなリスクを伴うという事も十分に考慮する必要がある。

 例えば、フィンランドは、この表には載っていないが2005年ではランク1位であった。フィンランドはノキアが突出して世界市場を席巻し競争力があったのが、携帯電話の競争状態の変化で急激にランクを下げた。その上、米国発の世界同時金融危機に端を発した、ギリシャ、ポルトガル、スペイン等を巻き込む欧州の金融不安の影響を受けたようだ。その結果、2010年は19位に落ち込んだ。

 このように、小国では一つか二つの要因の変化で急激にランクを上げ下げすることが可能である。つまりこの事はこのランキング自体、統計としてはあまり信頼性の高いものではないという欠点を示している。

  一方で、人口の比較的多い国、例えば、日本、イギリス、ドイツ、フランスなどはあまりランクが高くない事がこれを如実に物語っている。これらの国々では色々な産業があり、一国としてでもかなり自給自足が出来るという半面、非常に競争力のない産業の分野も維持しなければならないという特質を持っている。しかも、人口が多い分、それだけ貧富や教育など社会的バラツキは広がる傾向にある。従って、これらの国々ではランクがあまり高くないのである。

 こういう事情なので、このランキングを見て一喜一憂するのはあまり意味のない事である。それらを考慮するとフォーラムでドイツが高順位を維持しているのは、ドイツが非常に安定した競争力を持つ国であることを表している。

コメント3件コメント/レビュー

総論には賛成である。「国際競争力ランキングに一喜一憂する必要はない」「公共投資を減らす時期に来ている」「英語力をもっと重視すべき」「教職員の地位を向上させるべき」これらには賛成である。一方で違和感を感じる内容もあった。「公的教育支出が低いから競争力が上がらない」とあるが、そうだろうか。日本はドイツとそう大きな差はない。「ドイツは企業内教育が充実している」とあるが、それは日本も同じ状況であると思う。公的教育支出を増やす必要はないとまでは言わないが、増やせば国際競争力が上がると考えるのは短絡的過ぎるように思われる。また「日本では辞職する教職員が多いが、フィンランドでは現場の教職員に自由な裁量権がある」という内容も違和感がある。比較の話をするならまずはフィンランドで辞職する教職員の数の話をするべきだろう。裁量権の話をするならば、具体的に日本とフィンランドでどのような差があり、それが生徒の成長にどう影響するかという議論をすべきである。「日本で辞職する教職員数」と「フィンランドの教職員の裁量権」を比較で論じるのは、論点のすり替えにつながる危険性を感じる。記事全体としてはよい内容なので画竜点睛を。(2010/10/22)

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いただいたコメント

総論には賛成である。「国際競争力ランキングに一喜一憂する必要はない」「公共投資を減らす時期に来ている」「英語力をもっと重視すべき」「教職員の地位を向上させるべき」これらには賛成である。一方で違和感を感じる内容もあった。「公的教育支出が低いから競争力が上がらない」とあるが、そうだろうか。日本はドイツとそう大きな差はない。「ドイツは企業内教育が充実している」とあるが、それは日本も同じ状況であると思う。公的教育支出を増やす必要はないとまでは言わないが、増やせば国際競争力が上がると考えるのは短絡的過ぎるように思われる。また「日本では辞職する教職員が多いが、フィンランドでは現場の教職員に自由な裁量権がある」という内容も違和感がある。比較の話をするならまずはフィンランドで辞職する教職員の数の話をするべきだろう。裁量権の話をするならば、具体的に日本とフィンランドでどのような差があり、それが生徒の成長にどう影響するかという議論をすべきである。「日本で辞職する教職員数」と「フィンランドの教職員の裁量権」を比較で論じるのは、論点のすり替えにつながる危険性を感じる。記事全体としてはよい内容なので画竜点睛を。(2010/10/22)

公教育に政府投資をもっと振り向けよというご主張はよくわかる.しかし,現在のような財政投資の傾向は,必ずしも,戦後の復興からの惰性だけとは言い切れないように思う.むしろ,戦前から共通の政権の行動原理ではないか.要するに,選挙に有効な短期的な方策への傾斜である.戦前,特に,普通選挙導入以来,票を稼ぐには,薄く広く利益をばらまくためには陸軍への投資が都合よかった.戦後,軍隊がなくなったが,受益層は,よく見ると,戦前の受益層の主要な部分は不変で,むしろ,地主層がなくなっただけ,直接的になったように見える.実際は,この層もすでに崩壊し,それが地方の疲弊の真相だろうが,こうなると,中長期的に価値ある政策しか選択肢がないはずである.だが,教育面で価値ある方針が示されているかどうか,文科省のサイトを見る限り,確信は持てない.(2010/10/14)

「ゆとり教育」だけでなく、国立大学の法人化も問題だと思います。法人化によって、国からの研究費の削減、大学教員も雇用が保証されない等、長期的研究がやりづらい環境になった。また、大学院大学を強化するのは良いが、その分、大学学部での専門研究がなくなり、大卒でも高卒に毛の生えた程度になってしまっている。むしろ、高卒・大学受験時よりも学力が低下している。(2010/10/14)

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三品 和広 神戸大学教授