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ノーベル委員会が考える経済効果戦略

――生命の鎖をつなぐカップリング

2010年10月19日(火)

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 今年もノーベル賞の季節になりました。日本人の科学者として鈴木章・北海道大学名誉教授(80)と根岸英一・米パデュー大学特別教授(75)がノーベル化学賞を受賞したわけですが、毎年のノーベル賞には(少なくとも科学3賞、人文社会3賞のまとまりでは)「裏テーマ」が存在しています。その年に出すノーベル賞には「シナリオ」があるということです。今回はここからお話してみましょう。

キーワードは炭素

 2010年度の自然系ノーベル3賞の選考過程を推察してみます。委員会は毎年、その年各賞を授与する専門分野を先に決定してから、その分野の関係者に推薦アンケートを発送します。その観点で考えると今年は物理学が物性物理、化学が有機化学、医学生理学が臨床生命科学でした。正確には言葉遣いが違うかもしれませんが、まあそういう範囲の専門家(だけでも世界中に何万といるわけで)から代表的な300人程度にアンケートを出して、そこから先は公正な選考過程を踏みます。

 しかしそれ以前の段階では、できる限りノーベル賞としてのインパクトを高めるために、賞全体としての戦略を考えていることは、2年前「常識の源流探訪」の連載から生まれた本『日本にノーベル賞が来る理由』(朝日新聞出版)にも記しました。

 今年の各賞を見てみると、物理が「グラフェン」=低次元ナノ炭素化合物、化学は「クロスカップリング」=有機合成・触媒を用いた炭素鎖の結合で両者に「炭素」カーボンという共通点があるのが目につきます。ノーベル委員会がそこまで考えたかは定かでありませんが、結果的に今回の物理・化学は「炭素を巧妙に結びつけて、著しい効用をもたらす物質系を作り出した人々」に与えられたという共通項があります。こういう話、日本語でも英語でも見ないのですが、もっとすればいいのにな、と思っているので、僕なりに少しお話してみます。

 有機合成については、ほかにも山のように解説があると思うし、僕はぜんぜん弱いので人の言わないことだけ書きたいと思います。大学教養2年生の時、必修の有機化学を竹内敬人教授に習いました。その時、「有機は日本のお家芸」という言葉を教えてもらいました。

 正直、僕は「物理頭」で、細かい記憶事項が多く、また実験でにおいのキツイこともある有機化学は苦手だったのですが、竹内教授のお話は面白くて、つい引き込まれてしまいました。有機農法なんて言葉から分かると思いますが、有機化学=オーガニック・ケミストリーというのは、平たく言うと生物を作っている材料に関係する化学ということで、逆は無機化学つまり無生物関連ということになります。

 生物を作っている材料としては、アミノ酸たんぱく質が有名です。私たちは毎日何かモノを食べてそれを消化し=つまりバラバラの部品に分けて、次にそれを組み立て直して自分の体を作ります。ここで有機物の特徴として安定性と不安定性に注目してみましょう。

 動物が食べ物を消化するには、物質の変形が必要ですから、食べ物があまり安定=硬くて不消化だと分解できません。ニンジンの細切れから金属まで、一定以上安定なモノは人間の能力では消化することができない。

 ところが、バラバラにして組み立て直す部品のほうは、今度は安定であってくれなければ困ります。細胞を作っている材料のたんぱく質はそこそこ壊れやすいですが、その材料のアミノ酸にはシッカリしててもらわなければならない。有機化合物は炭素の鎖が骨格を作っていますが、この骨格は安定で、骨格同士は互いに反発しあって、容易に結合しない。ところがこの「炭素鎖」を、巧妙な触媒を使うことで、まるで飴細工かレゴ・ブロックのようにつなぎ直すテクノロジーが、1960~70年代以降、日本を基点として圧倒的に発展したのです。

 今回のノーベル賞報道を拝見して、鈴木教授も根岸教授も一般的な事柄に対して実に立派な見解を即座に述べられ、深く尊敬すべき科学者でいらっしゃると思いました。と同時に、ぜひ多くの読者に認識していただきたいのは、「今年は有機合成分野にノーベル賞を出そう」と決めて全世界の専門家にアンケートを採った時に、公正な入れ札で日本人が3分の2を占めた、というお家芸の底力をこそ、誇るべきだと思います。

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