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JALの“白紙スケジュール”で勢いづく解雇解禁論の不気味

人間の“気持ち”を無視する組織や社会に未来はない

2010年10月14日(木)

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 日本航空(JAL)のパイロット約370人に、「白紙」のスケジュールが渡された──。先週の金曜日(10月8日)、朝日新聞が朝刊の一面でこう報じた。

 同紙の報道によれば、JALの人員整理計画のうち、パイロット部門の削減目標は750人程度。ところが自主的に退職に応じたのは約380人にとどまっている。

 人員整理は再建を支援してもらっている金融機関との約束事であるため、絶対に達成しなくてはならない。そこで「50代後半の機長」、「50歳以上の副操縦士」、「今年度の病欠日数が41日以上の人」などに、白紙のスケジュールが面談通知書とともに渡されたという。

 「希望退職に応じればラストフライトを設定する。応じない場合は来月以降も予定は空白」──。

 白紙のスケジュールを受け取ったパイロットは、上司からそう告げられたそうだ。

白紙のスケジュールは、事実上の“退職勧告”

 JALサイドは、「退職の強要や整理解雇の通告ではない」としているが、JALの法人管財人職務執行者である瀬戸英雄氏(企業再生支援機構・企業再生支援委員会委員長)は先月末、「(計画に達しない場合は)整理解雇も覚悟しなくてはいけない」と発言している。「白紙」のスケジュールは、事実上の退職勧告以外の何物でもなかろう。

 ショッキングなやり方ではある。だが、既に経営破綻し、税金も注ぎ込まれているのだから、たとえ「整理解雇」であろうとも仕方がない。ブラジルのサンパウロ線をはじめ、いくつもの路線が続々と廃止されてもいる。

 JALにとって、今は何としてでも存続することが最大の使命なのだから、人員整理が不可欠な事態に追い込まれている社内事情も理解できる。従って、今回の“事件”そのものについて、あれこれコメントするのは控えておく。

 だが、私も全日本空輸(ANA)の客室乗務員(CA)だった当時には、ごくごく当たり前に月末にスケジュールをもらい、「うわぁ、来月きついなぁ~」とフライトの多さにうんざりしたり、時には「やった! シドニーついてる」などと、びっしりとフライトが書き込まれたスケジュールに一喜一憂していた。

 あのスケジュール表が、こんなにも重みを持つようになるなんて、正直信じられない。あの細長い紙切れが、“赤紙”に変貌してしまったのだから。

 記事では、大学受験を控える娘さんがいる51歳の副操縦士が、大学受験の願書を出す直前に白紙のスケジュールをもらい、「お父さんの職業欄に、『日本航空』と書いていいの?」と聞かれ、言葉に窮したとも記されていた。

 かつては、娘の願書であれ何であれ、「日本航空」と胸を張って堂々と書いていただろう。何ともやるせない話だ。

 あのJALの、あのパイロットたちがこういう状況に追い込まれることがあるなんて、誰が予想しただろうか。どんなに“安泰だと思われる”会社や職種であっても、一寸先は闇ということなのだろう。

大量解雇時代の幕が開けるのか

 そして、今回の報道をはじめ、JALの人員削減を巡ってクローズアップされた「整理解雇」という文言は、何か嫌なことの始まりのような気がしてならない。1997年に山一証券が破綻し、それを境に働く人たちの環境が激変した時以上の大きな変化の波が労働市場に押し寄せるような不気味さを感じるのだ。

 白紙のスケジュールは、航空業界も含めた多くの企業で働く人たちへの、恐怖のメッセージなのではないか。何だか、ちっとも理論的でない言い方で申し訳ないのだが……。つまり、これをきっかけに人員削減手段の主流が希望退職から整理解雇へと急速に変わりはしないか。そう懸念されてならないのである。

 何しろ最近は、解雇に対する抵抗勢力もめっきりと衰え、やたらと「解雇」を巡る規制の緩和を求める意見や記事が目立つ。

 「整理解雇したいよ~」と思っていた経営者たちの歯止めとなっていた、(1)人員整理の必要性、(2)解雇回避努力の履行、(3)対象者選定の合理性、(4)手続きの妥当性(組合との協議などを十分に経たかなど)からなる整理解雇の4条件が一気に破られる。そして、「ならばうちも」とばかりに、こぞって「白紙」のスケジュールを渡し、表面上は自己都合の退社の形を取った整理解雇が急増する可能性は高いのではないか。

 かなり複雑な問題ではあるし、論理的に書く自信もないのだが、大きな節目を迎えていると感じざるを得ない“今”を受けて、解雇の問題について、改めて考えてみようと思う。

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「JALの“白紙スケジュール”で勢いづく解雇解禁論の不気味」の著者

河合 薫

河合 薫(かわい・かおる)

健康社会学者(Ph.D.)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。産業ストレスやポジティブ心理学など、健康生成論の視点から調査研究を進めている。働く人々のインタビューをフィールドワークとし、その数は600人に迫る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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