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台湾の地震博物館で感じた「期待」と「意外」

【オノマトペと期待編その2】明暗の心理的な両面性が内在する感覚

2010年10月20日(水)

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 僕は思わず「これは・・・」と心の中で絶句した。その風景が冒頭の写真である。

 目の前には今しがた地震が起きたと言わんばかりの、被災直後の光景がまるで映画のワンシーンのごとく出現した。校舎はまるで時間が止まったかのように、見上げる僕の視界いっぱいに凄惨な姿を露呈していた。

 そのあまりにもリアル(と言っても、これは確かな現実の記録なのだ)な路面の隆起や建物の崩壊シーンは訪れた者を一瞬にして、驚きと不安に満ちた戸惑いの世界へと誘う。

 その日、初めて訪れた台湾台中県にある「地震教育パーク」の展示空間は施設の環境が隅々まで整備されており、また美しく緑化された場内のガーデンも手入れが施され、この空間を訪れた人々に心地よい癒しの環境を提供している。しかし、その一方で、そうした空間演出への配慮と真っ向から対峙した形で目の前に展示された「モノ」というよりは、むしろ「コト」の存在は圧倒的な凄みで見る者の視覚に突き刺さってくる存在感があった。

 これこそが「エクスペクトロジー(期待学)」でいうところの「意外性」に満ちたデザインと言わなくて、何と例えればいいのであろう。目の前に出現した崩れた建物や無数の瓦礫が持つ迫真の現実感に圧倒される来訪者は少なくないに違いない。

現実の一瞬を忠実に記録

 僕も今までに様々な博物館やミュージアムの展示は目にしてきたわけだが、この地震教育パークのように大規模自然災害の全体像をありのまま展示した例は見たこともなかった。しかも、それが実際に震災に遭われた現地に作られた施設であるという話を伺って、その企画の心理計画の大胆さに「驚き」がさらに高まっていった。

 そして、改めてできた製品ではなく、壊れてしまった製品や環境を実際に見てもらえる形で展示するということは「意外さ」の故に企画段階で周囲を説得するにもたいへんな勇気と努力が要ることではなかったか、と勝手に想像を逞しくした。

 実際、僕自身、入館してから施設を案内していただいたアテンダントの説明にできるだけ耳を傾けようとするのだが、目の前に広がる現実離れした非日常的な光景が放つ強力なインパクトはどんな丁寧なサービスよりはるかに大きな視覚的誘惑となって、僕を捕らえ離さない。どう意識を変えようとしてもその場所に佇んで施設を眺めていると、自分自身ではっきりと感じ取れる目の前の風景に対する「現実感」が湧き上がってこない。まるで、自分が映画のセットの中にいて、一時的に、切り取られた風景を見ているような非日常的な錯覚に捕らわれてしまう。

 繰り返しになるが、このすべての展示というか、保存された環境は映画のセットでもなければ、何ら人為的に合成された映像でもない。

 歴とした現実の一瞬を忠実に記録したものである。かつてないほどの人的な被害と様々な社会産業的ダメージを台湾に与えた「921大地震」の記憶を消さないために、その現実的被害状況を展示対象に据えて、残された記憶の証拠でもある。その思いに立って、人の住む街や暮らしに対して、安全と安心をもたらすために、耐震型の社会基盤作りを広く世界に訴求し、地震に強い社会づくりを研究提案する目的で企画されたのが、この地震教育パークである。

 施設には発足当初から来場者への教育的な価値にも十分考慮した学習プログラムが開発されてきた。多くの来場者が大震災の災害の大きさを目の当たりにして、都市計画や住宅の建築法はもとより、様々な身の回りの生活シーンにおける地震対策や配慮すべき安全対策に触れながら、地震被害の恐ろしさや恐怖を擬似的に体験してもらい、普段の暮らしの中で忘れがちになる地震に対する安全意識をきちんと育てていこうという狙いもあるのだという話も伺った。

 エクスペクトロジー的見地から分析すれば、この「意外」な展示場は誰もが、現実生活の中で時折、垣間見る地震への大きな「不安感」に焦点を当てて、実際の被災地をそのままの形できちんと残して公開し、歴史的な悲惨な状況を予測できない人々や分かっていながらも時間の経過と共に曖昧になっていく人々の安全意識に対して予断なき警鐘を伝えようという試みであると見て取れる。

 展示場でありながら実は現場でもある空間をうまく使って、「不安」を激しく刺激する「違和感」を訪れた人々に五感を介して強く与えながら、同時にその対策としてよく制御された館内展示や明解なプログラムに乗っ取った科学的な解説によって「期待感」を感じる良い意味での緊張感を与える体験的学習に昇華させていると言える。

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