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「そこまで、やる?」、にわかゴマスリも現れる中年期の“分かれ道”

アナタは己と向き合い、“もがき”ますか?

2010年10月28日(木)

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 「これ以上、上に行くのにはもっとゴマスリじゃなきゃダメ。僕みたいのは無理ですね。僕だって、上司とゴルフに行ったり、何やかんやするのも、仕事のうちだと思って今までやってきましたよ。上司をうまく操るって言うと言葉が悪いけど、そういう社内調整はある程度は必要ですから。でもね、僕レベルのゴマスリじゃダメですね」

 こうこぼすのは、大手広告代理店勤務の48歳のA氏、部長職の男性である。彼の次なるポジションは、役員、ということになるらしい。

 ゴマスリのうまい人。確かにいる。「すごい!」と感心してしまうほどの、“ゴマスリ”テクに優れた人。

 部下たちの前では絶対に下げない頭を、トップの前に立った途端、米つきバッタのように下げ続ける。いつもは部下が急かしても走ることなどないくせに、トップが乗るエレベーターを止めるためには見たこともないような猛ダッシュを見せる。そのタイミングとスムーズさといったら、まさしく絶妙。「さすが~これぞ、サラリーマン」と内心拍手してしまうような人だ。

 だが、冒頭の彼が閉口するほどのハイレベルなテクの持ち主は、奥さんへの贈り物を欠かすことなく、お嬢さんの進学や留学先まで面倒を見たり、息子の就職先まで世話をしたりするなど、家族にも抜かりなく気を使う人だという。

仕事では負けないという自信はあるけれど

 「ウチの会社は徹底的な能力主義なんです。ですから、部長クラスまでたどり着くヤツらは、長所短所ありますけど、どんな仕事であれ、そこそこやれる力はみんな持ってる。自分で言うのもずうずうしいですけど、僕だってそれ相応の結果は残してきたという自負はあります。今だってほかのヤツらに仕事で負ける気はしないし、絶対に負けないようにどうにかする自信はあります」

 「でもね、分かったんですよ。これ以上、上に行くには今までとは違う能力が必要なんです。我が身を捨ててトップを立てる能力、と言えば聞こえはいいですけど、要するに徹底的なゴマスリテク。つまり、役員になれるかどうかは、トップを『こいつを経営陣に加えても大丈夫だ』って安心させる力が必要なんです」

 トップが求める安心感とは、「後進は自分が築き上げたものを、変えることなく、引き継いでくれる」という確信である。

 どんなに変革を訴えるトップであっても、自分のやってきことには相当の自信がある。後輩ごときに自分の方針に大きな異を唱えられたり、自分が引いた後に、築き上げたものを180度変えられてはたまらない。無自覚の恐怖。すわ「自分の業績の否定」を防ごうという本能が働くのだ。

 特に一代で築き上げたオーナー会社のトップなどは、「会社はオレのもの。オレが守らなくて誰が守る。オレが作った会社を壊されてなるものか」という気持ちが強いだけに、その傾向が強くなる。同程度の能力であれば、「自分にロイヤルティーを示す部下を引き上げてやろう」と思ったとしても仕方がない。

 ゴマスリはトップに対する「あなたに100%忠誠を誓います」というメッセージ。極上のゴマスリテクは、トップの内心に潜む無自覚の恐怖を和らげる特効薬なのだろう。

出世が目的にならないと上には行けない?

 A氏いわく、同期の中にも「お前、そこまでやるヤツだったっけ?」と驚くほど、態度を豹変させる人が時折いるのだとか。

 「いやぁ、何と言うんですかね。もともとゴマスリ上手のヤツもいますけど、人並みだったヤツが、やたらと権力にこだわるようになったり、“ゴマスリ番頭”みたいに変貌しちゃったりしたことがありまして。いつの間にか守りに入る。役員になるにはね、出世が目的にならないと難しいんですよ。そのためにはそれまで仕事に向いていたベクトルをトップに向けないといけない。“ザ・サラリーマン”ってのは、こういうものなんでしょうね」

 事業や部門が縮小傾向にある中、ただでさえポストは減り、かつてあったような、抜擢人事など望めないこのご時世。最後の生き残りをかけて、必死な人もいる、ということなのか。

 出世がすべてではない。だが、出世して、部下を持ち、一人ではできなかったことがチームではできるという喜びは、相当なものだとA氏は言う。

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「「そこまで、やる?」、にわかゴマスリも現れる中年期の“分かれ道”」の著者

河合 薫

河合 薫(かわい・かおる)

健康社会学者(Ph.D.)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。産業ストレスやポジティブ心理学など、健康生成論の視点から調査研究を進めている。働く人々のインタビューをフィールドワークとし、その数は600人に迫る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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