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心が負けては、社員やスタッフに顔向けができない

遠山 正道 スマイルズ社長

  • 増田 晶文

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2010年12月3日(金)

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 スープ専門店「Soup Stock Tokyo(スープストックトーキョー)」のチェーン展開などを手掛けるスマイルズ(東京都目黒区)の社長、遠山正道は一度、唇をヘの字に曲げてから言った。

 「トライアスロンでゴールした時は、確かに最高でした。それは僕も認めます。でも、レース中ばかりか、準備の段階からずっとずっと苦しかった。一度も楽しくなんかなかったです。約束通りレースには出場したわけですし、もう許してほしいって感じですね」

 溺れかけ、落車寸前となり、足裏にケガをしながら取り組んだトライアスロン――なるほど、遠山がぼやくのも無理はない。

 「玉塚(元一。本連載「ビジネスもスポーツも『くったくた』になるまで」参照)と一緒に昼食を取っていた時、誘われたのがきっかけです。僕にトライアスロンなんて無理に決まっているから、その場で断りました。でも、それで済まなかった。玉塚は慶應幼稚舎からの後輩だし、いいヤツなんだけど、少々強引なんですよ」

 遠山のトライアスロン談義を聞いて、あまりに彼らしい顛末に、私は何度もうなずいてしまった。同時に、頬も緩んだ。ただし、それは冷笑や嗤いではない。かといって爆笑では失礼だし、微笑というのとも違う。何より、遠山は本気でトライアスロンに取り組んでいた。その姿勢を尊重し、立派だと言いたい。

 だからこそ、いくぶん苦みは混じっているが、決してウェットではなく、ほのぼのとした明るい笑顔になる。そしてこの笑いが、遠山という人物にはいかにもぴったりなのだ。

 本連載に登場する起業家たちの中で、スマイルズ社長の遠山正道だけは以前に取材したことがある。3年前の初夏のことだった。その際のあれこれは後述するとして、遠山の代官山にあるマンションを訪れた時、玄関にロードレーサーが置いてあった理由が、今回の再会でようやく分かった。

 私には、遠山がいかにもスポーツとは縁がなさそうに見えた。攻撃的だったり野卑だったりするところが全くなく、実に穏やかなムードを醸す人物だったからだ。そんな彼が、まさかトライアスロンに挑んでいたとは。

 ロードレーサーは、これで代官山や恵比寿辺りの街乗りに使っているのだろうという程度にしか思わなかった。ただ、彼がモノ選びに一家言あることは認識していたし、時にマンガチックなほど個性的なファッション感覚も相まって、そういったセンスが自転車選びにつながったのだと判断していた。

 だが、遠山は既にトライアスリートたるべく奮戦を重ねていたのだ。そればかりか、彼の身の上には起業家としての試練が大きくのしかかっていた――。

トライアスロン出場を「決められちゃった」

 「ひゃ~~~~っ」

 遠山は悲鳴を上げながら、ケータイを放り投げた。

 電話の主は、トライアスロン参加をもちかけてきたリヴァンプ代表パートナーの玉塚元一だった。

 「この12月にロタ島であるレースに参加申し込みしておきました。大丈夫、往復の飛行機のチケットも用意できています」

 今日から遠山さんも、トライアスロンを愉しむ経営者たちのグループ“トライアスロン・ボーイズ”のメンバーだ――玉塚はこう言って電話を切った。

 遠山は真っ青になった。彼はデスクから立ち上がり、なす術もなくウロウロと歩き回った。口から漏れるのは「どうしよう、どうしよう、どうしよう」という言葉だけ。

遠山 正道(とおやま・まさみち)
スマイルズ社長。1985年に慶応義塾大学商学部卒業後、三菱商事に入社。1999年「Soup Stock Tokyo(スープストックトーキョー)」第1号店をお台場ヴィーナスフォートに開店。2000年、三菱商事初の社内ベンチャー「スマイルズ」を設立。2008年にMBO(経営陣による企業買収)を実施、同時に三菱商事退社。ネクタイの専門ブランド「giraffe(ジラフ)」や新コンセプトのリサイクルショップ「PASS THE BATON」も手がける。一方でニューヨーク、赤坂、青山などで個展を開催するなど、アーティストとしても活躍。著書に『スープで、いきます』(新潮社)がある。

 突然の一本の電話、正気を失って狼狽する社長・・・社員たちが顔を見合わせ、不安げに遠山を見やる。遠山の動揺が、やがてフロア全体に広がった。1人のスタッフが、意を決して進み出た。

 「遠山さん、会社が潰れたんでしょうか?」

 遠山は、今さらながらに、あの“トライアスロン参加宣告”ほどショックなものはなかったという。

 「ずっと身体を鍛えることから遠ざかっていました。1.5kmを泳ぎ、40kmのバイクを漕ぎ、10km走るなんて、とてもできない」

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