私の妻は日本人。イタリア人のメイクアップアーティストにメイクをしてもらったことがある。
その時、帰宅してきた顔を見て、「な、なんだ! そのニューハーフ顔は!」と思わず叫んでしまった。あまりにどきつい。本人も洗面所に駆け込んで、急いで化粧を落とした。しかし、帰宅途中、道行く人たちが妻の顔を笑ったということはない。
結局、妻がイタリア人にメイクを任せたのは、2回しかない。懲りごりなのだ。1回目、派手派手しいカラーで目の周辺をべっとりと塗られた。そこで彼女は、2回目は「自然な感じに・・・」と頼んだ。確かに、メイクアップアーティストは、青系ではなく、茶系を使った。だが、日本人にしてみれば“ケバイ”のは変わらなかった。
日本では化粧したかどうか分からないような、自然な化粧が好まれる。しかしヨーロッパでは、化粧をするなら、化粧をしたことがはっきり分かる化粧がよい。日本水墨画を象徴する絵師である長谷川等伯の侘び寂び的なぼかした表現と、フランス印象派を代表する画家であるピエール=オーギュスト・ルノワールのはっきりした色彩の差異が、化粧の世界にも通じそうだ。
ミラノに化粧品専門店はない
「あの先生、香水が強すぎるよね」「そう、そう。香水って、2〜3回シュッシュッって吹きつけるものなのに、彼女はバケツでぶっかけるみたいで嫌よね。だいたい、香りの趣味も悪いし・・・」
イタリア・ミラノの小学4年生の女の子たちの会話だ。彼女たちは、誕生日のプレゼントに香水を贈り合う。香水の知識は、たしなみのひとつと言える。使い過ぎは悪趣味だが、全く使わないのもハズレ。
資生堂広報部の永井正太郎氏は語る。
「朝起きて、すぐ近くのコンビニエンスストアに出かけるとします。日本人、フランス人、アメリカ人でどう違うと思います? 日本人の女性だと、日焼け止めクリームや乳液。でも、フランス人なら香水。アメリカ人であればアイメイク。ちょっと極端かもしれませんが、こういう傾向があるんですよね」
ミラノには、日本にあるような化粧品専門店はない。香水と化粧品をほぼ半々くらいに陳列し、「香水店」として訴求していることが多い。化粧品は、こういう小売店舗、デパート、あるいはスーパーマーケットで買うことになる。
日本で香水は化粧品の一部として売られ、売り上げは全体の2〜3%にしかならない。しかし、ヨーロッパでは香水ははっきりと独立したポジションにあり、化粧品との売り上げ比率はほぼ同じだ。国別で多少の差はあるにしても、全体的な比率に変化はない。
それだけ目に見えない価値を重視し、その価値がビジネス上の重みにもなっている。フランスの女性が香水を軽く吹きつけてから近くの店に走るという感覚は、こういう数字になって表現されている。
香水文化と気取っているように取る向きもあるが、格好だけでこんなに大きな市場にはならない。一方、アジアはスキンケアで肌の手入れに勤しみ、米国はメイクアップ商品が売れるというのだ。
化粧品のローカリゼーションはどうなっているんだろうと思い、テーマに選んでみたところ、香水や化粧品の売られ方が日常の風景にある文化差を象徴している。
化粧より、香水が身だしなみ
日本では男性が彼女に「そんなに化粧するなよ」と言うことがある。濃い化粧は、男性が求める清楚なイメージに合わないということらしい。もちろん、イタリア男もほかの男の気を引くような化粧を自分の彼女がするのを嫌がることがあるが、それは清楚さに拘るとは違うような気がする。
しかし一方、日本では「化粧もしないでだらしない」という言い方をすることもある。これは女性同士の会話のほうが多いかもしれない。だが、ミラノでは化粧しないことがだらしないとは見られない。オフィスで毎日働く女性は化粧をするが、街中で歩いている人を眺めていると、日本より化粧をしていない女性が多いことに気づく。あるいは、アイメイクだけということもある。
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1958年横浜市出身。上智大学文学部仏文科卒業。日本の自動車メーカーに勤務後、イタリアでビジネスプランナーとして独立。現在、ミラノ在住。デザイン、食品、文化論などを活動領域とする。著書に『
1965年東京出身。デザイナー、デザインディレクター。桑沢デザイン研究所卒業後、建築設計と工業デザインを手掛ける黒川雅之建築設計事務所に入社。プロダクトデザインを担当し10年目に退社後、1997年テツタロウデザイン開設。文具、日用雑貨から住宅設備機器などのデザイン、中小企業へのデザインディレクションも行う。社団法人日本インダストリアルデザイナー協会正会員。日本大学芸術学部デザイン学科非常勤講師。Twitterは







