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第1話「会社に入ればなにかが皿にのって出てくる。考えもしなかった皿が出てくるのがサラリーマンてものだ」

2011年1月11日(火)

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 どこにもあの男の姿がなかった。
 あの男がいつもすわっていた席に、別の男がいた。
 「平成22年度第10回の取締役会を開催いたします」
 静まりかえったいつもの大きな会議室に、新しい声が響いた。取締役会がはじまったのだ。

 なんのこともないような決まり文句がだらだらと続く。だれもが漠然と聞き流してしまう。しかし、法的にみれば一部の隙もない文章に作ってある。暗記して、口にすれば、それでいいようにしてある。新任の社長なのだ、目の前に原稿が用意されてもいる。

 議長役の新社長の声は、緊張しきっている。こんな簡単なことが、震える声でしか喋れない。無理もない。まだ二回目なのだ。だれでも取締役会の議長などといった役に慣れるには時間がかかるものだ。しかも、彼にとっては突然の社長就任だった。一回目の議長役は、彼を社長に選ぶだけの儀式だった。実質的には今日がはじめてといっていい。

 だが、あの声の異様さはそれだけでは説明できない。声の震えは、彼があの男を意識せずにおれないからなのだ。
 あの男が、
 「いやー、遅れたな。すまんすまん」
 と手をふりながら、今にもドアを開けて入ってくるのではないかという気がしてならないのだろう。
 「横淵君、代役ご苦労さん」
 といいながら、あの男がいつもの自分の席にすわろうとする姿が目に浮かんでいるのだ。

 いつもの席?
 それは、彼が新社長としてすわっていて、今まさに議事をとりしきっている席だ。
 「なんだ、横淵君、そんなとこにすわって。どけ、どけ」
と、あの男に怒鳴りつけられてしまいそうな気持ちが、心のどこかにあるにちがいない。おびえているのだ。
 新社長になった横淵三男だけではない。あの男のことを、その場にいる取締役も監査役も事務方の人間も、だれもが横淵と同じように意識しないではいられないでいる。

 内外海行株式会社は一流商社といわれている。
 ま、そういうことになるのだろう。といっても、内外海行くらいの売上げや利益の会社なぞ、いくらでもある。年に2000億を売って20億の利益。そのための従業員の数が2000人というのが、いったいどれほど自慢になるというのか。社員に優しすぎる会社だといわれて久しい。「そいつがなければ、あそこの時価総額ももっともっと高いはずだ」と、いつも投資家連中が言い立てている。

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