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価値は創造して高く売るもの

――北斎に学ぶイノベーション[2]「印象派」の隠れた起源と価値創造

2011年1月11日(火)

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 毎年ゴールデンウイーク前後になると「サザビーズ」の絵画オークションのニュースが報じられます。このところの不況下でも「印象派絵画に高値」といった文字が見出しに躍ります。

 まことに景気のよいことですが・・・いや、本当に景気が良いのでしょうか? そういう情報が出ること自体から、ちょっと考えてみたいのです。

 とりわけ2006年は絵画落札の高値記録の更新が相次いだ年でした。5月3日にピカソの「ドラ・マールと猫」が9500万ドルで落札、為替レートにもよりますが、まあ大雑把にいって絵1枚が100億円するわけです。

 ところがすぐ次いで6月18日、グスタフ・クリムトの「アデーレ・ブロッホバウアーの肖像」が非公式売買で1億3500万ドルの高値をつけ、落札記録が更新されてしまいます。絵画1枚が150億円ということです。

 ニュースを漫然と見ているだけなら「あーそんなもんかねー」という程度かもしれません。しかしファイナンスという観点から「美術品」の資産価値を考えるなら、少し違う見方が可能でもあります。今回のテーマではありませんので深追いしませんが、これが証券であれば市場価格の乱高下で様々な得失があることになります。では美術品なら?

 すでにサブプライム以降の金融破たんが十分見込める時期にあった2006年、中東や新興国のマネーを巧妙に導入してササビーズが高値更新し、キャッシュを抜いた、とこの図柄を見れば巧妙といえば巧妙ですし、証券の市場価格と別の価値尺度を持つ「美術品というもう1つの証券」を手にしたサイドも、その運用で別の安定したビジネスを展開する事が可能になります。

 このあたり、さまざまに微妙な問題があるわけですが、今回の趣旨はこうした「高値」の起源を考える所にあります。

サザビーズとクリスティーズ

 日本で「印象派絵画の高値落札」というとヴィンセント・ゴッホの作品が思い出されるのではないでしょうか。1987年には安田火災海上保険(当時)がゴッホの「ひまわり」を購入、約53億円という価格で世間をアッと言わせ、ついで90年には大昭和製紙の斉藤了英氏が「医師ガシェの肖像」を約125億円で落札、バブル経済を象徴的に示す「落札」はジャパンマネーの印象派絵画購入で記録が更新されました。

 これを見ながら、当時20代前半の若造でしたが、1人の日本人芸術家として、なんとも情けないなと思ったものです。とりわけ、こんな経緯で日本にやってきた絵画のいくつかが再度、海外流出する話を聞いたときには、実にアホらしいと思いました。これは単に金銭上の損失という以上に、その源流に遡るとき、日本人がカモられるのは実に不甲斐ないと思う背景があるからなのですが、これは今回の後半でお話することにしましょう。

 美術品競売で世界のトップ2というべき「ササビーズ」と「クリスティーズ」は、ともにロンドンにある競売会社です。ササビーズの設立が1744年、クリスティーズは1766年、世界最古と世界最大のオークション会社は、共にイギリス人が作ったということに、まず注目しておきましょう。

 イギリス人は株式化とか証券化、あるいはオークションのような競り市など「財」に付加価値をつけていくのが実に巧みです。ゴッホ(オランダ)ピカソ(スペイン)クリムト(オーストリア)など、競売に掛けられる品物は各地から(というより大半はイギリス以外)から持ち込まれるものですが、それをキャッシュに化けさせ、テラ銭を巻き上げるという「胴元」ブランドとして、ロー(というかほとんどノー)リスク、ハイリターンの構造を確立していることに注意せざるを得ません。

 これはまた「格付け会社」の元祖の1つでもあります。「サザビーズに持ち込まれた」「クリスティーズで競売に掛けられた」という事実自体が「信用」=財を産む。知財は間違いなく「情報付加価値」の一形態ですが、それらを生み出す「価値の根源」が、こうしたブランドにある事は、改めて注目しておく価値があると思います。

価格と価値を支える人々

 しかし、こうした競売会社としても、ただ安穏と利をむさぼっているばかりでは成り立ちません。新しい「価値」を生み出す、この場合は「新商品を発見し続ける」ことが、ディーラーとしてはとても重要な仕事になるわけです。「印象派絵画」「クリムト」「ピカソ」こういった美術作品に「価値がある」とされるのはなぜなのか?

 いったん「市場価格」あるいは「落札価格」がついてしまうと、その値段自身が一人歩きし始めてしまいます。一方で、大阪の下町のおばちゃんなどが

「ピカソの絵いうんの、テレビでみたけど なんであないなへったくそな絵がそんな高い値段ついとるのん?」

というような「ホンネ」もあるかもしれません。

 印象派絵画やピカソ、あるいは戦後のアメリカン・ポップアートに至るまで、美術作品に高値がつくには、それらを支える「神話」ないしは「ストーリー」が存在しています。欧米の画商やキュレーター、あるいは美術評論家といった人々は、そうした価値を価格と共に作り出し、文化や作家の制作を守る人々でした。リトアニア系ユダヤ人の美術評論家、クレメント・グリーンバーグはそうした最右翼の1人といえると思います。

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中村 克己 元ルノー副社長、前カルソニックカンセイ会長