横井啓之は“総ガラス張りでホワイトを基調にしたおしゃれな料理教室”――「ABC Cooking Studio(ABCクッキングスタジオ)」を基幹に、女性だけのフィットネススタジオ「ボディーズ」などを展開する「ABCホールディングス」の総帥だ。
横井は1985年、弱冠21歳で起業した。“若さ”を原動力として、がむしゃらに突っ走ってきたが、40歳の節目を迎える頃には肉体的に落ち込みを感じていた。そんな時に出会ったのがトライアスロンだ。
「僕のスタンスはあくまでも“無理しない”と“苦しまない”です。だからトライアスロンも、成績やタイムにとらわれないでレースを愉しんでいます」
彼の落ち着いた口調からは、マイペースでトライアスロンと向き合っている様子がストレートに伝わってくる。これは、恐らく横井のビジネス展望や人生観にも共通していることに違いない。
トライアスロンというフィルターから、起業家としての彼を照らしてみると、どんな人物像が浮かび上がってくるのだろうか。
ABCホールディングスCEO(最高経営責任者)の横井啓之が現われた。

ABCホールディングスCEO(最高経営責任者)。1985年に女性初心者を対象とする料理教室「ABC Cooking Studio」をオープン、1987年にジェンヌ(現・ABCホールディングス)を設立して本格に展開を開始する。2007年に男性向け料理教室「ABC Cooking Studio+m」も立ち上げる。全国に112校(2010年10月15日時点)。また、女性専用フィットネススタジオ「ボディーズ」なども手がけている。
180cmを少し超えようかという背丈、それにふさわしい分厚い胸板とごつごつした腕、浅黒い肌――この人とはケンカしたくないなぁ、と胸中でつぶやいてしまった。あのいかつい拳で肝臓辺りにパンチを食らったりしたら、しばらく息ができないほどつらいだろう。痛みだけでなく、切なさと後悔も押し寄せ、とても立っていられない。だけど膝を折ったら下からキックが飛んでくるし、あえぎつつ上体を起こしていても、隙だらけの逆サイドを殴られそうだ・・・などと、戦闘多発だった大阪・河内で過ごしたティーンエイジャー時代の経験がよみがえった。
しかし。横井と話して、そんなイメージはたちまち雲散霧消した。
「威圧感、ありますか? ガタイがでかいのは間違いないけど、怖いなんて言われたこと、最近はないですよ」
人擦れしていない笑顔がこぼれ、広がっていく。
「自分を律して、無理やり人にソフトに接しようなんて考えていません。力まず、自然に生きるようにしているだけです」
トライアスロン、ついでにフルマラソン
横井の醸す男臭さは独特だ。軽薄な武骨さやふんぞり返った権高さではなく、やさしさと暖かさのフレーバーがそこはかとなく香る。横井の、白いシャツとデニムという、シンプルだが嫌みのないファッションは彼をうまく体現していると思う。しかも、よく見ればシャツのボタンや切り返しが凝っている。ジーンズにもダメージ加工が施されていた。
料理も手の込んでいないものほど難しかったりするし、そこでの隠し味が全体を大きく左右するはず――。
横井がトライアスロンを意識するようになったのは2005年の春だった。
「パーク・コーポレーションの井上(英明)ちゃんから『ロタ島の大会に出場するんで、一緒に参加しないか』と誘われたのがきっかけです」
横井は「無理だよ」と断った。何しろ、それまでの20年近くをスポーツと無縁で過ごしていたからだ。
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