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第6話 誰が経営の多角化を望むのか

  • 草野 耕一

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2011年1月13日(木)

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分散投資理論

 「Bust-up Merger」という言葉をご存知だろうか。多角化された企業(一般に「コングロマリット」と呼ばれる)を丸ごと買収し、買収後に各事業をバラ売りして利益をあげる取引のことであり、以下これを「解体型M&A」と呼ぶことにする。

 M&Aの世界に疎遠な人にとって解体型M&Aはかなり怪しげな取引に思えることだろう。「せっかく事業を拡大した企業を解体して利益をあげるとはなんと反道徳的な行為であるか」、そう考える人は法律家(特に裁判官)の中にも結構いるようだ(※1)

 しかし、ここは冷静に考えてもらいたい。「事業を拡大した」(=多角化した)ことに価値があるのならば、これを「バラ売り」して利益が出るはずがない。別の言い方をすれば、バラ売りして利益が出るということはそれ以前の企業の状態に何らかの問題があったはずであり、解体型M&Aにはこれを是正する価値創造機能があることになる。多角化された企業のどこに問題があったのだろうか。この点を理解するためには、多少ファイナンス理論の知識が必要となる。以下、その要点を説明する。いささか分かりづらい話が続くが、ご辛抱願いたい。

 資産の性質を表す指標の代表は期待収益率とボラティリィティである(※2)。期待収益率とは一定期間(今後、特に断らない限り、1年間とする)における当該資産の収益率=(収益-時価)÷ 時価の期待値であり、ボラティリィティとは収益率の標準偏差である(※3)。期待収益率は資産のリターンの大きさを示し、ボラティリィティは資産のリスクの大きさを示している。

 具体的に説明しよう。A社の株式の市場価格が1万円で、1年後の株価の期待値が1万2000円とする(それまでに配当が支払われる予定はないものとする)。期待収益率の公式を変形すれば期待収益率=(期待収益-時価)÷時価となるので、A社株式の期待収益率は、(1万2000円-1万円)÷1万円=0.2、百分比で表せば20%である。期待収益率は、現時点で1円を投資して対象資産を購入した際の期待純利益(この場合は0.2円)と解釈することもできる。

 ボラティリィティについては、収益の確率分布が正規分布(=左右対称なベル型の確率分布。図1参照)であると仮定して考えるとそのイメージを把みやすい(※4)。正規分布する確率変数の実現値は68%の確率で期待値±標準偏差の範囲内にあり、95%の確率で期待値±2×標準偏差の範囲内にある。したがって、A社株式の収益率が正規分布し、その期待収益率が20%でボラティリィティが15%であるとすれば、同社株式の収益率の実現値は68%の確率で5%から35%(=20%±15%)の範囲内にあり、95%の確率で-10%から50%(=20%±2×15%)の範囲内にある(図1参照)。ボラティリィティが小さければ実現値のバラつきは縮まり、ボラティリィティが大きければ、バラつきが拡大する。

 期待収益率はリターンの大きさを示し、ボラティリィティはリスクの大きさを示すということの意味を実感してもらえたであろうか。以下、期待収益率とリターン、ボラティリィティとリスクはそれぞれ同義の言葉として議論を進める。

※1 たとえば日本放送がライブドアに対して発動した買収防衛策の可否が争われた事件の東京高裁決定(平成17年3月23日判時1899号56頁)は、「会社経営を一時的に支配して当該会社の事業に当面関係していない不動産、有価証券などの高額資産等を売却等処分させ、その処分利益をもって一時的な高配当をさせるかあるいは一時的高配当による株価の急上昇の機会を狙って株式の高価売り抜けをする目的で株式買収を行っている場合」を会社を「食い物にしようとしている」場合の例として挙げている。この論理でいくと、本業以外の事業をバラ売りして利益を挙げる解体型M&Aも会社を「食い物にする」取引ということになりそうだ。

※2 正規分布または対数正規分布である確率分布はこの二つの指標のみによってその形状を特定できる。したがって、収益率の確率分布がこのいずれかの分布に近似するとすれば、期待収益率とボラティリィティの値のみによってその特性のほとんどすべてを示したことになるだろう。

※3 資産の収益をX(確率変数)、時価をPとすれば、収益率R(確率変数)、期待収益率μおよびボラティリィティσはそれぞれ次のように表せる。

※4 株式の確率分布は長期的には対数正規分布に近似するが、1年程度の期間であればこれを正規分布とみなしてもリアリティは失われないと一般に考えられている。

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