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企業の“オトナ買い”に振り回される若者の悲惨

見え隠れする「新卒一括採用をやめたくない」企業の本音

2011年2月10日(木)

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 今、自分が若者だったら、どうしたらいいか分からなくなっていたと思う。

 ある時は、「個性を伸ばせ!」と言われ、ある時は、「独創的になれ!」と言われた。ある時からは、「人と競ってはいけない!」と諭され、「空気を読め」としかられた。

 そして、今度は「とんがれ!」、「組織になじまなくていい」、のだそうだ。

 ご存じの方も多いと思うが、先日、富士通が一芸採用枠を3倍に増やすことが報じられた。メディア各社が報道した内容をまとめると以下の通りだ。

 富士通は2012年春入社の新卒者採用で、幅広い人材を確保するために一芸に秀でた学生を特別枠で迎え入れる。スポーツや社会貢献、勉強、起業などで実績を上げた学生を昨年の3倍の約30人採用する予定。昨年は応募した約380人のうち12人が内定し、「ともすればおとなしい人材が多くなる傾向がある中、いわゆるとんがった人材を採ることができ、組織に良い刺激になった」(広報)と評価。

 面接では、あえて志望動機を問わず、学生時代に打ち込んだことや、物事に挑戦する気概を聞き出す。内々定に至るまでの面接回数も通常枠より少なく2回だけで、志望動機は不問。エントリーシートも通常枠は規定の質問に答える形式だが、この特別枠は手書きも可能な「フリー形式」。

 単なる実績ではなく、その実績を上げるまでの過程の努力や挑戦心も重視している。

 「一芸採用」は、ソフトバンクも昨年に始めた。「組織になじめなくてもいいから、挑戦する若者が欲しい」(広報)ためだという。

ちょっと前までは「組織になじめ」と言われたのに……

 「おっ、これは新しい採用方法でいいね!」と評価している人もいるようだし、「あなたも一芸。個性を磨いてみませんか?」をうたい文句にして、学生向けの新たなるビジネスを立ち上げようと目を輝かせている人もいるようである。

 でも、私が学生だったら――。かなり戸惑う。そして、グレる。だって、子供の時には、優劣をつけるのは良くないと言われ続けたのに、訳が分からない。何をいまさら個性を出せだなんて。なじむように、コミュニケーション能力を高めろって、散々言われたのに。

 念のため断っておくが、何も一芸採用をしようとする企業を非難しているわけではない。

 それぞれの企業独自の哲学があるのだろうし、外野がとやかく言うことでない。「とんがっている人材を、出る杭を打つ日本の社会が育てることができるのか?」などと、批判する人たちもいたようだが、それはその会社が考えればいいことだし、既に数年前に始めていて今回その枠を増やしたというのだから、それなりの実績があるのだと思う。

 2005年に、松下電器産業(現パナソニック)で一芸採用が始まり、今ではオンリーワン採用として継続しているとのことなので、採用側が狙った効果は得られているのだろう。

 「組織になじまなくてもいい」とした企業についても同じだ。

 もし、「これについてどう思うか?」と意見を聞かれれば、「どんなに上に『組織なじまなくてもいいよ』と言われたところで、なじめない本人は不安になるだろうし、なじまないメンバーと一緒に働かなくてはいけないほかのチームメンバーはたまったもんじゃないかもしれませんね」と答えるかもしれない。

 でも、既にこちらも昨年から実施しているということなので、大きなお世話。きっとうまくいっているのだろう。

 ただ、採用担当や広報の方たちが、「本来だったらウチの会社を受けないような学生が来る」とか、「とんがった人材が入ると組織の刺激になる」と語ったと聞くと、「大企業というのは余裕があるのだろうなぁ」と正直思う。

 いわば“オトナ買い”。大企業の醍醐味。お金のない子供にはできない。お金があるオトナだからできることだ。

 そして、今回の報道も含め、“3年まで新卒扱い”や“就活を遅らせる”などの、昨今の就活や採用に関する企業の動きを見ていて思うことはただ1つ。

 結局、「就職難にあえぐ学生をどうにかしよう」などと、誰も真剣に考えていないんじゃないか、と。厳しい就職難で、わらをもつかみたい気持ちでいっぱいの学生は、いかなる報道にも敏感である。「一芸」と言われれば一芸を磨きたくなるし、「とんがれ!」と言われれば「とんがるとはどういうことか?」と悩む。3年までオッケーと言われれば、「本当にそうなのかなぁ」と期待と不安が入り混じる。

 問題は一括採用という方式にあるのに、それを変えようとしないわけで。「就職難だとか、内定率が低いとか言ってるけど、受かる人は受かってるだろ。どんなに厳しくてもさ」と内心思っているように思えてならない。

 報じるメディアも、あたかも“採用の多様化が進み、就職の間口が広がる”がごとく扱っているが、どれもこれも意味ある議論とは到底思えない。これでは学生たちを惑わすだけ。何も救いにはならない。

 “オトナ買い”ができるオトナたちの、建前と本音が透けて見えてしまうのだ。

 そこで今回は、昨今の採用にかかわるニュースに感じる、「あべこべ」について考えてみようと思う。

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「企業の“オトナ買い”に振り回される若者の悲惨」の著者

河合 薫

河合 薫(かわい・かおる)

健康社会学者(Ph.D.)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。産業ストレスやポジティブ心理学など、健康生成論の視点から調査研究を進めている。働く人々のインタビューをフィールドワークとし、その数は600人に迫る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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