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組織を動かす指揮者の育て方

「修羅場経験」の「知識構造化とその可視化」

2011年2月15日(火)

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 先週の金曜、日本時間では土曜日の未明になりましたが、エジプトのムバラク大統領「辞任」との報がありました。「常識の源流探訪」でも来週以降、関連の問題を考えたいと思っていますが、今回は前回の続きを、区切りの良いところまでお話したいと思います。

 前回、組織を動かすマネージャー、経営者の知恵に通じるヒントがいろいろ詰まっている、オーケストラやオペラなど音楽の現場での指揮者の仕事の一部をご紹介しました。幸い新刊の「指揮者の仕事術」(光文社新書)ならびにタイアップCD「コギト・エルゴ・オーディオ われ聴くゆえにわれあり」も好調で、心から感謝しています。音楽の世界は現実社会の他分野とやや様子が違いますが、その分長い歴史に鍛えられて、純度の高い形で組織運営や人材育成の骨格が見えるところがあると思います。

 今回は、前回お話した「指揮者の知恵」を絞れるような人材、つまり「指揮者の育て方」をご紹介したいと思います。ビジネスで言うなら「経営者育成」「マネージャー人材の伸ばし方」のヒントになるだろうお話ができればと思います。

エリートコースは秀才の墓場

 で、いきなり結論からで恐縮ですが、指揮者の育て方に特別なコースがあるわけではないのです。でもこれが一番重要なところだと思うので、最初に記したいと思います。いろいろな音楽大学に「指揮科」という学科がありますが、今、世の中で活躍している指揮者で「指揮科出身」の人は多くて半分程度、実は「専門学科」とされるところで学ぶことは、この仕事に関して、確実な役には立たないのです。

 これは「経営者」と考えれば分かりやすいでしょう。「何々大学経済学部経営学科」とか「商学部経営コース」などを修了していることが、企業経営に必要でしょうか。あるいは、そのコースで学んでいれば、企業経営は準備万端OKと言えるか?

 まあ、そんなことでOKな経営など、現実社会であるわけがないわけで、逆に言えば「将来を約束されたキャリア」とか「特権的なエリートコース」なぞというものが、ろくな代物でないことが、こんなところからも明らかに分かると思います。

 オーケストラやクラシック音楽に興味のない読者の方も多いと思うのですが、例えば「楽壇の帝王」などと呼ばれたヘルベルト・フォン・カラヤン、カラヤンの対抗馬のようだった作曲家でもあるレナード・バーンスタイン、もっとさかのぼれば近代指揮者の鼻祖のひとりアルトゥール・トスカニーニ、あるいはヴィルヘルム・フルトヴェングラー、いま挙げた4人の大指揮者の誰一人として大学で「指揮科」は出ていません。と言う以前に、音楽大学すら出ていません。

 トスカニーニは地元パルマ(パルメザン・チーズの故郷です!)の音楽院で作曲とチェロを学びましたが、フルトヴェングラーは大学教授の息子として生まれ家庭教育で学んだ大教養人で20歳から現場に入った名誉博士号所持者、カラヤンは化学工学中退で基本は叩き上げ、バーンスタインも短期間カーチス音楽学校に在籍しましたが基本はハーヴァードで法学を学んだ人で、まとまったカリキュラムで指揮を学んだわけではない。というより経営と同様で「これだけ修めておけば指揮ができる」というようなカリキュラムは存在しません。

 歴史上の巨匠のみならず、現在世界で活躍している人たちを見回しても、小澤征爾さんのように創設されたばかりの桐朋学園で指揮科第1期生として学ばれ、大野和士さんも東京藝術大学指揮科のご出身ですが、恩師ピエール・ブーレーズは作曲家、ダニエル・バーレンボイムはピアニスト、韓国の生んだ若き巨匠チョン・ミュンフンはチャイコフスキーコンクール第2位のピアニスト、久々のドイツ人期待の星クリスチャン・ティーレマンはオペラの練習ピアニスト出身、音楽院ではヴィオラ科に属し、カラヤン・アカデミー生としてベルリン・フィルのヴィオラ・エキストラで学びながら、ベルリン・ドイツ・オペラで伴奏ピアノを弾いてキャリアをスタートさせた叩き上げ、しばらく前に亡くなったイタリアのジュゼッペ・シノーポリは医学部出身で精神科医の作曲家といった具合で、指揮という仕事はさまざまな人材が活躍することに大きな特徴があるのが分かります。

 何より私自身、親戚に音楽家の多い家に生まれ、学校は一般大学に進み、個人レッスンとコンクール、そして現場での叩き上げで、現在までやってきた経緯があります・・・そう、この「現場叩き上げ」というのが、唯一最大の「指揮者人材の育成法」なのです。学校で指揮科を出ていようが何かを出ていようが、極論すれば精神科医でも何でもいい、適性のある人が必要な経験を経て、その仕事が出来るようになるというのが「指揮」でもあるし「経営」でもあるわけです。

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