「資源ウォーズの世界地図」

中国が独占意欲「トリウム原発」とは

米国はしたたかに“潜行”、日本の出遅れ感は大きい

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2011年3月3日(木)

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 去る1月25日、中国科学院(the Chinese Academy of Science=CAS)がショッキングな公式発表を行った。

 中国の“戦略的・先導的科学技術特別プロジェクト”としてトリウム溶融塩原子炉の開発プログラムを実施するということだ。(文新伝媒の報道による)

ウラン原子炉は燃焼効率の悪い“石炭ストーブ”

 このプロジェクトの責任者、中国科学院、上海応用物理研究所の徐洪傑がWenhui Newsの許埼敏記者に語ったことを翻訳すると次のようになる(一部要約)。

*   *   *

 化石エネルギーはいずれ枯渇する。再生可能エネルギーは柱になり得ない。中国の更なる発展のためには膨大なエネルギーが必要。一方で、温暖化ガスは減らさなければならない。これは“馬を速く走らせるが、草を食べさせない”ことと同じだ。しかし、30〜40年後の将来、エネルギーの柱をトリウム原子力発電にすればそれが可能になる。(1トンのトリウムは200トンのウランあるいは350万トンの石炭と同じエネルギーを発生させる:ノーベル物理学賞受賞者、カーロ・ルビア博士、筆者注)

 現在の原子力エネルギーシステムはウラン-235 を燃料としている。その埋蔵量は少なく、石油・石炭など化石燃料と同時期に枯渇が懸念されている。

 わが国はトリウム資源大国。1000年にわたって枯渇の心配がない。(世界のトリウム資源はウラン資源の約4倍:USGS、筆者注)

 トリウムを燃料としてどのような原子炉を作るのか。

 現在、世界で常用しているウラン原子炉は燃焼効率の悪い“石炭ストーブ”のようなものだ。わずかな最上質の燃料を燃やしただけで大量の‘石炭の燃え滓’(核廃棄物)を残す。

 それに対して中国は、トリウムを核燃料としながら、これまでの原子炉から出る核廃棄物を再利用もできる原子炉を研究・開発しようというわけだ。それには幾つかの選択肢があるが、中国は溶融塩炉という方式を選んだ。

長期連続運転が可能で、燃料の“雑食性”が強い

 この方式は、核燃料(トリウム-232)をフッ化物にして、フッ化物塩からできている溶融塩に溶解した状態で燃やす。地殻の中のマグマに少し似ていて、“ストーブ”の中で燃え続け、絶えず巨大なエネルギーを出す。液体燃料の原子炉ということがほかの原子炉と違うところだ。

 その特徴は構造が簡単で、長期連続運転が可能で、燃料の“雑食性”が強いなどの利点がある。しかも、小型かつ精巧に作ることができ、一定量の核燃料を装入すれば数十年の安定運転ができる。さらに、理論的に、核廃棄物は現在の技術による原子炉の1000分の1しか発生しない。次世代原子炉は世界で研究開発中であるが、我が国がトリウム溶融塩炉の研究を今始めれば、おそらくすべての知的所有権を獲得することになる。

 これまで人々は、“核”に言及すると顔色が変わる。広島・長崎の原爆、チェルノブイリ原発事故など悪夢のように人類の歴史に刻まれている。しかし、トリウム原子力は平和の象徴で、人類を新しい紀元へと導いてくれる。伝統的な原子炉で発生した核廃棄物の中には核兵器に使われるプルトニウム-239が多く含まれるため、核拡散のリスクにつながる。“新しいストーブ”でトリウム-232を燃やすと核燃料としてのウラン-233を出すと同時に不純物としてウラン-232 も出るが核兵器には利用できない。

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著者プロフィール

谷口 正次(たにぐち まさつぐ)

谷口 正次

資源・環境ジャーナリスト。1960年九州工業大学鉱山工学科卒、小野田セメントに入社。同社資源事業部長などを経て、1994年に秩父小野田常務、1996年専務、1998年に太平洋セメント専務。2001年に屋久島電工社長(太平洋セメント専務取締役兼務)2004年6月国連大学ゼロエミッションフォーラム理事(産業界ネットワーク代表)。主な著書に「メタル・ウォーズ」(東洋経済新報社)、「入門・資源危機―国益と地球益のジレンマ」(新評論)など。



このコラムについて

資源ウォーズの世界地図

産業を支える資源に対するリスクが高まっている。銅やアルミなどの非鉄金属はもちろん、自動車の触媒に必須なプラチナ、次世代電気自動車に使われるリチウムなどのレアメタルも、“資源メジャー”や新興国の国家戦略とも絡み始めている。これまでカネさえ出せば入手できたさまざまな産業のキーとなる鉱物資源の囲い込みが始まっている。このコラムでは、鉱山技術者として世界の現場を踏破してきた筆者が、これからの資源リスクについて解説する。

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