「小屋知幸のビジネストレンド研究所」

MBO急増は何を意味するのか

市場と株主に背を向ける経営者たち

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2011年3月1日(火)

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MBO急増

 日本企業のMBO(マネジメント・バイ・アウト)が急増している。2010年はユニマットライフやコンビなどが、MBOにより上場を廃止した。また2011年は、すでにカルチュア・コンビニエンス・クラブ、アート引越センター、エノテカなどがMBOの計画を発表している。

 MBOとは企業買収の一形態であり、経営陣による株式の買い取りのことである。ただし通常は経営陣だけで株式買取資金を用意することは困難であり、投資ファンドの出資を仰ぐケースが多い。MBOにより買収された企業は上場を廃止し、パブリックカンパニー(公開企業)からプライベートカンパニー(非公開企業)へと変わることになる。

 上場企業の株主は機関投資家、取引金融機関、経営者、従業員、取引先、顧客、その他の一般投資家など多種多様であり、企業に対する株主の要求は一律ではない。従って上場企業の経営者は、株主や株主以外のステークホルダーの錯綜する利害を調整しながら、経営の最適解を見出していかなければならない。

 これに対してMBO後の非公開企業の株主構成はシンプルだ。MBO後の株主は原則的に、経営者と、経営者の経営方針を支持する投資ファンドなどに限られる。つまりMBOによる経営体制変更の最大のポイントは、コーポレートガバナンス(企業統治)の担い手が多数の不特定株主から、経営者およびファンドなどの特定株主に変わることである。

曲がり角の経営と経営体制の転換

 MBOに踏み切る企業には、一定の共通する特徴がある。それはこれらの企業が、経営の転換点に差しかかっていることだ。実際MBOを実施した企業の多くが、「経営の自由度拡大と、その点を生かした抜本的経営改革の推進」をMBOの目的として掲げている。

 例えばベビー用品事業を展開するコンビは、少子化による市場縮小に苦しんでいた。コンビが今後の成長戦略を推進するためには、事業の軸足を日本から新興国に移す必要があった。そして新興国での事業展開を加速するためには、今までの高付加価値型製品戦略からの脱却を急ぐ必要があった。

 同様にレンタルビデオを主力事業とするカルチュア・コンビニエンス・クラブも、パッケージソフト市場の急速な成熟化に直面していた。そして現行のビジネスモデルの延長線上には、今後の成長戦略が描けない状況に陥っていた。

 コンビやカルチュア・コンビニエンス・クラブの経営が成長軌道に復帰するためには、現行のビジネスモデルを捨て去る覚悟が必要だ。そのことによる“改革の痛み”は避けられず、短期的には会社の業績を大きく損なう可能性がある。いっぽう公開企業における多くの株主は短期利益追求のスタンスが強く、改革に伴う業績の悪化を容認しにくい。

 よって痛みを伴う経営改革を迅速に推進するためには、多様な株主がガバナンス(統治権)を持つ公開企業よりも、少数の株主と経営者が専権を握る体制が適している面がある。このような考え方に基づき、経営の非公開化を進める企業が増加している。

薄れる“上場の意義”

 加えて、株式上場の魅力が低下していることも、MBO急増の大きな要因となっている。
企業が株式を公開する理由としては、一般的には以下の点が挙げられる。
(1)資本市場からの資金調達
(2)会社の知名度向上、社員の士気向上
(3)創業者やベンチャーキャピタルなどの資金回収
(4)プライベートカンパニーからパブリックカンパニー
  (=社会の公器)への位置付けの転換

 なかでも多くの企業が「上場の目的」と考えているのが、資金調達と知名度向上だ。

 ただし、これらの目的に関して、株式上場のメリットは薄れがちだ。近年は多額の設備投資を必要とする製造業の比重が下がり、大きな資本を必要としない知識・情報産業やサービス産業の比重が増えた。また経済の成熟し投資機会が縮小していることから、企業が抱えるキャッシュは増え続けている(詳しくは「企業内埋蔵金を解放せよ!」を参照されたい)。また会社の知名度向上に関しても、既に企業ブランドを確立した大企業にとって、上場は不可欠な要件とは言えない。

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著者プロフィール

小 屋 知幸(こや・ともゆき)

小 屋 知幸セレンディップ・ラボ代表取締役。日本総合研究所主席研究員などを経て現職。経営コンサルティング業務の傍ら、鋭く“現代を斬る”著作を発表しているほか、個人投資家としても活躍中? 日経ビジネスオンラインで「ビジネストレンド研究所」を連載。著書に「こころの価値を売る世界にただひとつだけの会社」「お払い箱のビジネスモデル」(ともに洋泉社)などがある。1963年生まれ。群馬県出身。早稲田大学卒。



このコラムについて

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 ビジネスの奔流の中ではあらゆる事象が浮かんでは消え、猛烈なスピードで我々の目の前を通り過ぎて行きます。ただしビジネストレンドに も「王道」と「邪道」があります。ビジネスの荒波に立ち向かうためには、時代の“本流(王道)”を捉えて、その流れに乗ることが重要で す。ビジネストレンド研究所では、降り注ぐ情報の雨の中から、時代の“本流”へと進む流れを見出していきたいと考えています。

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