「“しーマン”の独立独歩」

「企業人格の不在」は誰の責任?

創業者が引退した大企業がタイタニック号化した時の「緊急マニュアル」

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2011年3月3日(木)

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 十数年も前の話ですが、日経ビジネスの巻頭寄稿ページで、当時、本田技研の新社長が次のようなことを書いていたことをいまでも記憶している。

 「イエスなのかノーなのか、はっきりしないと言われる。確かに自分でもそう認識している。創業者には会社をつぶす権利があるが、自分には、その権利がない。だから判断が鈍る。だが自分の答え方は、『イスでもノーでもない』ではなく『イエスでもありノーでもある』だ。それが、後継社長にできる最大のことだ」
 といった主旨だった。

「会社を潰す権利」

 ソフトバンクの孫正義氏が「やりましょう」とツイッター上で即答していることがずいぶんと話題になった。他の2キャリアの社長にそれができないのは、つまるところ上述した本田技研の社長と同様の理由だと推測できる。創業社長というのは自分の人格を前面に出すことが許された存在である、ということだろう。実のところ、孫氏が発想する新サービスに比べて、他の2キャリアのサービスがそれほどに劣っているのか?という質問に対しては、明確な答えを僕は持ち合わせていない。だが、孫氏の意思決定のスピード感が醸し出す心地よさには、人を魅了する魔力があります。

 冒頭の「会社をつぶす権利」。こういう表現だと少し危険に聞こえるけれど、「会社の方向を変える権利」と言い直すと、企業のとても重要な要因に思えてきます。ソフトバンクが電話会社に至るまでに、「この会社つぶれるんじゃないか」と何度となく言われたことは記憶に新しい。が、孫氏率いるワンマン会社はそれをなんとか切り抜けて成長してきた。

 どの会社も一度は行使した事があるだろうこの「会社をつぶす権利」。しかし、会社が巨大化し一度失うと、もう二度と戻すことができないような響きがあります。じゃ、それを失い、重大な判断をしにくくなってきた企業はどうすればいいのか?という話になってくる。企業が「法人格」である以上、企業にも人格がなければならない。が、果たしてそれを発揮できるのは誰なのか?社長個人か?取締役会か?は商法も決めてはいない。ただ1つ言えること、上場企業の多くでは、それが明確じゃない、ということです。

その航空会社キャプテンは誰だったの?

 僕は日本の重鎮企業である某航空会社が経営不信に陥った時、その復活劇を応援したいと思って、新車のポルシェ1台分ほどの金額を、下落しつつあるその会社の株にちょっとずつ投資したことがあります。元来、飛行機が好きだったこと、そして、この会社に勤務する優秀な友人が偶然多かったことも手伝って、戦後の日本の航空業界になくてはならないこの会社に賭けてみたいという願望が芽生えた結果でした。けど、残念ながら、何が起きる事もないまま、あれよあれよという間に上場廃止になった。

 「何が起きる事もないまま」ってわけじゃないぞ、と弁明される関係者の方も居られるんでしょうが、すべては結果論。優秀な人材をあれだけ集めた企業が経営難に陥ったその後の内部混乱に、企業人格が集約されているような気がするのです。航行中に「キャプテンに万が一の事があった時には誰が指示を出す」といったことが航空法とかでマニュアル化されていると聞きますけど、その企業そのものがすったもんだするってのは、いかがなものか?と思ったものです。

 会社には、非常時にリーダーを決めてその指示に従う仕組みがないってことだったのでしょうかね。頭の良いエリートがあれだけ集まった会社でも、企業人格を打ち出すリーダーはついに出ることがないまま株価はゼロとなっていった…

中小企業の役割は変わり者の受入先

 さて、今回の本題に入るけれど、「中小企業の存在意義ってなんだろう?」と考えることがあります。もちろん零細企業も含まれます。(念のために言い直しますが、これ、「ベンチャーの役割」ではなくて、「中小企業の役割」という意味です)

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著者プロフィール

斉藤 由多加(さいとう・ゆたか)

ゲームクリエーター。
ゲーム開発会社、ビバリウムの代表取締役社長。
 ゲーム「シーマン〜禁断のペット〜」「ザ・タワー」「大玉」などで文化庁メディア芸術祭をはじめ国内外で受賞多数。著書に「ハンバーガーを待つ3分間の値段」(幻冬舎刊)、「シーマン語録」(ダイアモンド社刊)、「マッキントッシュ生誕の真実」(毎日コミュニケーション刊)、「林檎の樹の下で〜アップル日本上陸の軌跡〜」(毎日コミュニケーション刊)など。2010年9月から、携帯電話とtwitterを使ったサービスを提供するマインドスコープの代表取締役会長を兼任。twitterのIDは@YootSaito



このコラムについて

“しーマン”の独立独歩

 40代の男性サラリーマンを繁華街のギャルたちは隠語で“しーマン”と呼んでいる。世界不況の中、大量雇用の象徴と言えるこのしーマン世代がもしいまから独立起業したら、どんな事態に直面するのか?
 大企業に勤務していると決して経験することのない会社操業の実態を、人気ゲーム「シーマン」の作者でありゲーム開発会社の社長である著者が、体験談を交えてつづるエッセイ。

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