「究極のサービス」

おばあちゃんを魅惑する店〜ダイシン百貨店(上)

超小商圏デパート、「半径500メートルを100%顧客化」の野望

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2011年3月8日(火)

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 やっぱり!

 ダイシン百貨店の新装オープンに足を踏み込んだ瞬間にそう思った。

 やっぱり、野暮ったいのだ。いや、失礼。言い換えれば、「昔の良さをそのまま引き継いでいる」。

 2月25日金曜日、JR大森駅近くの商店街。午前10時に新築されたダイシン百貨店がオープンすると、並んでいた客がなだれ込んでくる。

半径500メートルを一網打尽に

動画へのリンク
新装開店風景
画像をクリックすると動画をご覧いただけます。(WMV形式)

 よくテレビのニュースでも見る「新装開店」の場面だが、何かが違う。入ってくる客の動きが、ちょっと鈍い。よく見れば、高齢者が多いことに気付く。これがダイシン百貨店を象徴する光景だと言える。地域に根付いた1店舗だけの百貨店。そこで、「半径500メートルの住民を100%顧客にする」という強烈なキャッチフレーズを打ち出してきた。そして、「1日1回以上、店に来てもらう」というのだ。

 その結果、東京の昔ながらの住宅地で、地元のおじいちゃん、おばあちゃんを取り込んできた。客の7割は50歳以上。そして圧倒的な支持を得ている。秘訣は、「客が望む商品は、たとえ1人の客のためにでも仕入れて陳列する」というポリシーを徹底させたこと。

 だから、店がいくら新しく建て直されも、商品は「昔ながら」のものが並ぶ。

 柳屋のポマードもある。若い人はブランド名すら知らないだろうが、高齢者にとっては慣れ親しんだ身近な商品だ。しかし、今では柳屋のポマードを使う人はあまりいない。

新装開店のイベント
新装開店直後の店内

 ところが、ダイシン百貨店の顧客には、このポマードの愛好家がいるという。そのために、ほとんどの百貨店では、もはや扱われていない柳屋のポマードをしっかり商品棚に並べている。

 マクセルのカセットテープも陳列されていた。高齢者のカラオケサークルでは、未だに自分の歌声をカセットテープに録音する。テープの中心の穴にえんぴつを突っ込んで、クルクル回して曲の頭出しをする。この原始的な「頭出し」の方が、デジタルで一発頭出し、というような操作よりもしっくりくる。このクルクル回す作業がないと、おばあちゃんにとってはどうにもカラオケの調子が出ないというわけだ。

 どこの売り場を歩いても、懐かしい商品に出会う。コイル式のカセットコンロもあれば、焼き上がったパンが2枚跳ね上がるトースターもある。ちゃぶ台に置くと似合う、昭和時代の食卓の必需品、「花柄の炊飯器」もあった。

 どれも時代遅れの商品のように見える。だが、最新式を使いこなせない高齢者にとっては、こっちの方が「欲しい商品」なのだから仕方がない。また、こうした商品が置いてあることが、おばあちゃんの心を和ませ、安心して回遊できる空間になる。

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著者プロフィール

内藤 耕(ないとう・こう)

工学博士、独立行政法人産業技術総合研究所サービス工学研究センター副センター長。サービス産業生産性協議会業務革新フォーラム推進委員会委員、日本小売業協会流通業サービス生産性研究会コーディネーター等を務める。主な著書に、『サービス工学入門』(編著、東京大学出版会)、『江戸・キューバに学ぶ“真”の持続型社会:資源制約を環境サービスで乗り越えろ!』(共著、日刊工業新聞社)、『サービス産業進化論』(共著、生産性出版)、『サービス産業生産性向上入門−実例でよくわかる!』(日刊工業新聞社)、『「最強のサービス」の教科書』(講談社)など。



このコラムについて

究極のサービス

 客も驚く「究極のサービス」を求めて全国を歩く著者。日本各地で見た「至極のおもてなし」を詳細にリポートし、さらにそのバックヤードに潜入する。そこにはサービスを支える驚愕の仕組みがあった。
 工学博士でもある著者は、サービスという数値化しにくい「商品」を、理論的・体系的に捉え、サービス企業の未来像を明確に描き出していく。
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