「究極のサービス」

魅惑の“死に筋商品”〜ダイシン百貨店(下)

ダンスパーティーから結婚式まで、「住民が集まる中心地になる」

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2011年4月5日(火)

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 2月上旬、新装開店を数週間後に控えたダイシン百貨店。4階のペット用品売り場では、地元の女性がペットフードを買い込んでいた。

 カートには、ペット用の缶詰が山のように積まれている。ネコを13匹飼っていることから、このデパートで月に4万円程度、ペットフードを買っているという。

 「だって、どこより品物が揃っているでしょ。ここに来ればすべて事足りるから」

「買い物難民は絶対に出さない」

 確かに、見回す限りペットフードが並んでいる。「国内の商品はすべて仕入れる」(幹部)。だから、ネコ用のフードだけでも約600種類に上る。

動画へのリンク
ペットフードを大量に買い込む地元住民
画像をクリックすると動画をご覧いただけます。(WMV形式)

 これほどの膨大な品揃えになったのは、「客が欲するものはすべて並べる」という方針を徹底したからだ。破綻寸前だったダイシン百貨店は、5年前に現社長が就任すると、「半径500メートルを100%顧客にする」というスローガンを掲げた。デパートとしては異例の方針だ。だが、ダイシンは徹底して地元にターゲットを絞り込み、1人の小さな声もすくい上げてきた。

 超小商圏デパート――。

 この、かつてないコンセプトは、他に例のない強い業態を築き上げた。

 地元は高齢者が多く、客層も50歳以上が7割を占める。だから、食品の売り方にも「個別対応」を取り入れている。惣菜や刺身は、老人はたくさん食べられない。だから、小分けにして売る。魚は三枚に下ろし、一切れずつでも売る。刺身も、客の要望に対応して切る。

 1人たりとも見捨てない。そして要望に応えていく。

 そうしていると、ペットフード売り場は品物があふれかえった。歯ブラシも約300種類を揃えている。

手前はオープンしたばかりのダイシン百貨店新館。その奥にある旧店舗はこれから改装される

 現在、合計18万品目にも上る商品を扱う。2月25日に新館がオープンしたが、建物の半分を建て直しただけ。残りの半分は、これから建て替えて、来年に全館オープンする。現在、売り場が半分になってしまった状況だが、「商品点数は減らさずに営業している」(幹部)という。

 半分ずつの建て直しは効率が悪い。それでも、ダイシン百貨店がなくなれば、地元の老人が行き場を失いかねない。

 「買い物難民を出したくなかった」(幹部)

 住民の「ここに来れば、目当ての商品が必ずある」という安心感を、一時的にでも失ってはいけないという経営判断だ。

 しかし、客の声をすべて受け入れるマーチャンダイジング(商品政策)は、在庫膨張といった財務悪化の危険を伴う。かつてダイシン百貨店が危機に陥ったのも、ずさんな在庫管理が主因だった。

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著者プロフィール

内藤 耕(ないとう・こう)

工学博士、独立行政法人産業技術総合研究所サービス工学研究センター副センター長。サービス産業生産性協議会業務革新フォーラム推進委員会委員、日本小売業協会流通業サービス生産性研究会コーディネーター等を務める。主な著書に、『サービス工学入門』(編著、東京大学出版会)、『江戸・キューバに学ぶ“真”の持続型社会:資源制約を環境サービスで乗り越えろ!』(共著、日刊工業新聞社)、『サービス産業進化論』(共著、生産性出版)、『サービス産業生産性向上入門−実例でよくわかる!』(日刊工業新聞社)、『「最強のサービス」の教科書』(講談社)など。



このコラムについて

究極のサービス

 客も驚く「究極のサービス」を求めて全国を歩く著者。日本各地で見た「至極のおもてなし」を詳細にリポートし、さらにそのバックヤードに潜入する。そこにはサービスを支える驚愕の仕組みがあった。
 工学博士でもある著者は、サービスという数値化しにくい「商品」を、理論的・体系的に捉え、サービス企業の未来像を明確に描き出していく。
 日本で勃興する「究極のサービス企業」を見よ!

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