• ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版
  • 日経BP

第10話 続・M&Aの諸技法

  • 草野 耕一

バックナンバー

2011年3月31日(木)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

前回から読む)

買収対価の選択

 前回では、株主フリーライド問題への対処策として(1)スクイーズ・アウトの宣言を伴う公開買付けと(2)ロング・フォーム・マージャーという二つの選択肢があることを話した。今回は、買収会社に与えられたもう一つの選択肢=買収対価を株式で支払うか現金で支払うか、について考えることから話を始めたい。

 買収会社は株式(※1)と現金のうちいずれを買収対価の支払手段(この言い方は長いので、以下、単に「買収対価」という(※2))として用いるべきだろうか。結論から言おう。買収対価を決める要因は、(1)買収会社の資本政策と(2)当事会社株式の市場における評価である(※3)。以下、順次説明する。

 買収対価の選択はM&A実施後の買収会社の資本構成に大きな影響を与える。議論を簡略化するために対象会社の負債比率は0であり、かつ、M&Aを実施しても付加価値は生じないと仮定しよう。

 まず、現金を買収対価とするためには買収資金を借り入れるか、さもなくば手持ちの資産を売却して資金を確保する必要がある(※4)。この場合、借入金を使って買収を行えば買収会社の負債比率は増大し、手持ち資産の売却によって得た資金を用いて買収を行えば負債比率は変わらない。これに対して、株式を買収対価とすれば買収会社の負債比率は低下する(以上の各点について図1を参照されたい)。

 7話で説明したように、負債比率が上がると株式はハイリスク・ハイリターンな資産に変質する。そうなってもMM命題が成立する限り1株あたりの株主価値は変わらないが、タックス・シールドや倒産コストを考慮すると負債比率の変動は1株あたりの株主価値に影響を与える(以下の各点の論証については7話を参照されたい)。そこで、買収後の負債比率を最適なものとするという観点から買収対価の選択がなされる。

 買収対価の選択に関するもう一つの判断要素は買収会社と対象会社の各株式が市場でどう評価されているかである。具体的に説明しよう。

(1)まず、買収会社の株式が市場で過大に評価されていると同社の経営者が考える場合、買収会社は株式を買収対価とすることを希望する。なぜならば、これによって株価下落リスクの一部を対象会社の既存株主に負担してもらうことが可能となるからである。

(2)逆に、買収会社の株式が市場で過少に評価されていると同社の経営者が考える場合、買収会社は現金を買収対価とする買収を希望する。なぜならば、株式を買収対価とすると株価回復に伴う値上がり益を対象会社の株主と共有しなければならないからである。

(3)次に、対象会社の株式が市場で過少評価されていると買収会社の経営者が考える場合、買収会社は現金を対価とする買収を希望する。なぜならば、そうすることにより株価回復に伴う値上がり益を買収会社の株主だけで独占できるからである。

(4)最後に、対象会社の株式が市場で過大評価されていると買収会社の経営者が考える場合、買収会社は株式を対価とする買収を希望する。なぜならば、現金買収を実施すれば株価下落のリスクを買収会社の株主がすべて引き受けることになるのに対して、株式を対価とすればこのリスクを対象会社株主に共有してもらえるからである(※5)

※1 株式の種類としては買収会社自身の株式自体を用いることのみを想定して話を進める。現実には稀に他社の株式を買収対価として用いることがあり、その典型例は親会社株式を合併対価とする「三角合併」である。

※2 買収対価の価額ではなく支払手段を問題にしていることを強調するために「買収通貨」という言い方もある。

※3 この二つの要因に加えて、事業リスクを対象会社株主に共有してもらうか否かという点を対価選択の要因に加える論者もいるが、この判断は買収完了後の株式をどの程度ハイリスク・ハイリターンなものにするかという資本政策の考慮事項の中に含まれていると考えてよいであろう。

※4 資本構成を論じる際には現・預金は通常負債の控除項目として扱われるので(この控除を行った後の負債を「Net Debt」という)、既存の現・預金を買収資金に用いた場合は「負債による調達」と考えるのが妥当であろう。

※5 ただし、本文に記載した利害状況において対象会社の経営者は反対の種類の対価を希望するはずである。たとえば、本文(1)の状況、すなわち買収会社の株式が市場で過大評価されていると対象会社経営者が考えている場合、対象会社は株式よりも現金を買収対価となることを望むだろう。したがって、買収会社と対象会社経営者が互いに最善を尽くして買収交渉をするとすれば、理論上は買収対価の選択は買収会社株主と対象会社株主間の利益の分配に影響を与えないはずである(たとえば、上記(1)の場合、対象会社は株式を買収対価とすることを認める条件として株価下落リスクの反映した合併比例を要求するであろう)。にもかかわらず、買収対価の選択が株主間の利益の分配に影響を与えているとすれば、その理由は、対象会社経営者は諸般の事情によりM&A取引完了後の株価変動リスクに対して買収会社経営者よりも関心が低いからではないだろうか。

「草野耕一のあまり法律家的でない法律論」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

変化を受け入れやすい組織体質があればビジネス上の“地殻変動”が起きた際にも、他社に半歩先んじられる。

井上 礼之 ダイキン工業会長