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被災者に“寄り添う”思い、あなたは持ち続けられますか?

ルーティンのある生活が人に活力をもたらす

2011年4月7日(木)

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 もちろんまだ完全ではないけれど、ここ東京などの首都圏を中心に、少しずつ日常が戻り始める兆しが見え始めた。

 上野動物園のパンダ、銀座のホコ天、政治家たちのスーツ姿、私鉄の通常運行――。街に人が戻り始め、道路を走る車も増えてきた。面白いことを言っていた人は、いつものように面白いことを言い始めたし、人の悪口ばかり言っていた人は、いつものように悪口を言うようになった。

 今回の震災で最も被害の大きかった東北の3県でも、場所によってかなりの温度差はあるものの、日常が戻る──のではなく、新たな日常が始まっているようだ。

 ある避難所では、「長丁場では、日常を作ることも大事」と、6時起床→ラジオ体操→朝食準備→朝食→掃除→自由時間(仕事のある人は出社)→昼食準備→昼食……といった具合に、1日のスケジュールを立てて、みんなで共有しているという。

 「前とは全く違うけれど、これが今の私たちの日常になっている。毎日、やることが決まっているというのは、なんだかホッとしますね」。マイクを向けられた方がこう答えていた。

「日常がある」という安心感

 確かに、日常がある、というのは、実にホッとするものである。

 私自身、なかなか日常を取り戻すことができずにいたので、周りに日常が戻り、日常の大切さを改めて感じている。

 日常に戻れなかったのは、別に自粛などという立派なものでもなければ、周りを気にしてどうのとかいうものでもない。ひょっとすると震災当日の出来事で、軽いショック状態にあっただけなのかもしれない。

 いずれにしても、「被災していない私たちが、まずは日常に早く戻ることが大切だ」と思いつつも、「大変な方たちがたくさんいるのに、いつもの生活に戻ってしまっていいのだろうか」とためらった。感情が割れていたのだ。

 だから、仕事は日常通りに取り組めても、『自分のため』だけの日常には戻れなかった。

 私にとって、いわばストレス発散の場であった、週1回のクラシックバレエのレッスンに、どうしても行く気になれなかったのだ。おかげで、どんな時でも必ず英気を養うために通っていたレッスンを3週間サボってしまった。

 誰に責められるわけでもないのに、割れる感情が行きたい気持ちの邪魔をしたのだ。

 どう考えても、行かないことによるプラスは1つもないのに。とにかく行けなかった。で、やっと周りの日常が戻ったことがきっかけになり、久しぶりに先日行くことができた。

 すると……、実に楽しかった。理屈なしに、楽しかった。いつも通りの場所で、いつも通りのリズムで、いつも通りの時間が流れることに妙にホッとしたのだ。そして、何よりも元気が戻った。

 毎日、数日おき、あるいは毎週、繰り返される日常は、想像以上に、私たちの気持ちに大きな影響を及ぼしているものなのだなぁと改めて感じた。

 その一方で震災前の日常が戻れば、3月11日の出来事や“今”ある優しい気持ちが、忘れられやしないかという不安もよぎる。

 そこで、今回は“日常”について考えてみようと思う。

 以前、母親を急に失った友人が、喪が明けて出社したら「楽になった」と語っていたことがある。

 「決められたことを、いつも通りにやるということが、あんなに悲しい気持ちから救ってくれるものだったとは思わなかった。いつもやっていることだから、その間は何も考えなくてもいい。周りには、いつもの人たちが、いつものようにいて、いつものように話をする。それだけで安心するんだよ。日常って、何も考えなくていいってことなのかもしれないね」

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「河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学」のバックナンバー

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「被災者に“寄り添う”思い、あなたは持ち続けられますか?」の著者

河合 薫

河合 薫(かわい・かおる)

健康社会学者(Ph.D.)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。産業ストレスやポジティブ心理学など、健康生成論の視点から調査研究を進めている。働く人々のインタビューをフィールドワークとし、その数は600人に迫る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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