「第三企画室、出動すReturns」

episode:R2 「地震は東北なのになんでそんなに急に物がなくなるんだ。」

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2011年4月26日(火)

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「第三企画室、出動す Returns」について
2009年5月11日から2010年7月27日まで毎週掲載されていた連載小説「第三企画室、出動す ボスはテスタ・ロッサ」の前半部分が徳間文庫から「幸福な会社」と改題、発売されました。この発売を記念して、特別編「第三企画室、出動す Returns」を1カ月に渡ってお届けします。第2回は引き続き、3月11日のオルタナティブ・ゼロを描きます。

「だめです。おにぎりもパンもカップ麺も、まったくありません」

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 楠原弘毅(くすはらこうき)が息を切らせて帰ってきた。手にした袋から、キャラメル2箱とかっぱえびせんを出す。

「食べられるものはこれだけでした」

 地震の揺れで止まったエレベータは、午後8時になっても動いていなかった。エレベータの保守は公共の建物を優先している。オルタナティブ・ゼロがオフィスにしている住宅用マンションは後回しになる。

 電車が動きそうにない。会社に泊まる用意をしなくてはならなかった。事務所に泊まることは珍しくなかったが、食料の備蓄があるわけではない。

 いちばん若い楠原が買い物をかってでた。29階までの階段を往復するのはそれだけで大仕事だ。買い物に出るのも容易ではない。

「地震は東北なのになんでそんなに急に物がなくなるんだ」

 旭山隆児(あさひやまりゅうじ)が首を傾げた。

「とにかくすごい人です。近所の飲食店も全部外まで行列が伸びています」

 地震の揺れは大きかった。だが、幸いにオフィス内に被害らしい被害はなかった。窓の外の風景にも何も変化はない。点検待ちのエレベータさえ動けば自分たちにとっての地震はそれで終わりだと思っていた。

 電車が動かないことがわかり、食事もままならないとわかった。

 難民。そんな言葉が頭に浮かんだ。

 数時間前まで、何不自由なく暮らしていたはずなのに、300キロも離れた地震の被害がその日のうちに横浜まで及んで来るとは思ってもいなかった。

「どうやらパシフィコを帰宅難民の為に開放したらしいです」

 国際展示場の広いフロアが帰宅できない人の一夜の宿として提供されたのか。

 みなとみらいに人が溢れていた。何の用意ももたぬ人が飲食物を求めてコンビニや飲食店に殺到していた。

 固定電話は夜にはそこそこ繋がり始めた。携帯はあいかわらず繋がらない。

「わたし、いったん家へ帰ります。部屋も心配ですし。このあたりがだめなら、どこかで食べ物を調達してもどってきます」

 風間は決断した。黄金町へ引っ越してよかった。みなとみらいからは3キロほどしか離れていない。徒歩で40分ほど、自転車通勤で15分だ。

 仕事用の靴から自転車通勤用のスニーカーに履き替えた。フロアへ出た。エレベータはまだ動いていない。薄暗く無機質な非常階段を降り始めた。26階まで降りたところで、容易でないことがわかった。わずか3階分、まだ十分の一だ。

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著者プロフィール

阿川 大樹(あがわ・たいじゅ)

小説家、コラムニスト。1954年、東京生まれ。日本電気(NEC)およびアスキーで半導体LSI開発エンジニアおよび半導体部門事業責任者。1991年より、米国シリコンバレーの半導体ベンチャー企業の設立に参加。1997年、小説家に転身。1999年、サントリーミステリー大賞優秀作品賞。2005年、ダイヤモンド経済小説大賞優秀賞。著書にはシリコンバレーで起業する日本人技術者と巨大資本の闘いを描いた『覇権の標的』、最新刊は『フェイク・ゲーム』。横浜市の元特殊飲食店街・黄金町に仕事場「黄金町ストーリースタジオ」を構え、地域の人と共に、町の再生プロジェクトにも参加している。日本推理作家協会会員。



このコラムについて

第三企画室、出動すReturns

2009年5月11日から2010年7月27日まで毎週掲載されていた連載小説「第三企画室、出動す ボスはテスタ・ロッサ」の前半部分が徳間文庫から「幸福な会社」と改題、発売されました。この発売を記念して、特別編「第三企画室、出動す Returns」を一カ月に渡ってお届けします。旭山隆児、風間麻美、楠原弘毅の3人が帰ってきましたよ!

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