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なぜ原子炉の冷却に長い時間がかかるのか

正しく怖がる放射能【3】

2011年4月26日(火)

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 しばしば問題になるヨウ素131は、私たちの体の中で他のヨウ素の同位体と区別されることなく甲状腺に取り込まれてしまいます。一度取り込まれると、私たち自身の体の材料に組み込まれるわけで、放射性の原子だけ取り出すことはまず不可能です。チェルノブイリで甲状腺全体を摘出する手術が多く行われたのは、こういう事情がありました。

 実は私たちは、お母さんのおなかの中で存在し始めた瞬間から、かなり多数の放射性元素も材料に使いながら作られ、この世の中に「おぎゃあ」と生まれ出てくるのです。大人はもちろん、生まれたばかりの赤ちゃんも、お母さんに作ってもらった体や骨の中に多くのカルシウムを持っており、当然その中には放射性カルシウムも含まれています。これらは半減期に応じた割合で崩壊しているはずですが、私たちの新陳代謝や免疫の機能が十分に強いので、体内に起きた異常はさっさと掃除されてしまい健康に特段の影響は出ません。

 人間が生まれつき放射性元素と無関係であるように思い込む“変な潔癖症”が、大きな誤解を生んでいる気がします。

 先ほどのカルシウムの例に関連して言えば、原発事故で放出された放射性同位元素の中では「ストロンチウム90」が要注意です。

 ストロンチウムは化学的にはカルシウムとよく似ており、いったん体の中に取り込まれると骨に沈着しやすく、容易に取り出すことができません。ストロンチウム90はベータ崩壊で強い電子線を出し「イットリウム90」という別の原子核に崩変します。

 骨の中に沈着したストロンチウムによって、このベータ線を浴び続ける体内被曝が継続すると、健康に大きな影響が出ることが懸念されます。ストロンチウムを体内に取り込まぬよう、極力注意すべきと思います。

ポイントは「頻度」

 いま「体内被曝」は恐ろしい、健康に大きな影響が懸念されると記しました。しかし改めて、それはなぜなのでしょうか。実はそのポイントは「頻度」にあるのです。

 私たちの体のシステムが正常に働いて、異常な振る舞いをする細胞をきちんと掃除できる範囲内であれば、多少の放射線や体内の放射性同位体が暴れても、まあ、カルシウムの例などもあり、いつものことですから特に変化はありません。普通に体の中を掃除して、普段どおりの健康という秩序を保つことができます。

 問題は、短期間に集中して強い放射能を浴びてしまうこと、つまり頻度が急すぎる過剰な被曝をしてしまい、人間の自然治癒の処理能力を超えたダメージを負った場合です。こうなると放射線障害を発症してしまいます。放射線の害は短期集中型で攻撃を受けすぎてしまうことによって引き起こされる、と考えて、大きく外れません。

 放射能汚染で「線量率」が問題になるのはこのためです。1日当たり、あるいは1秒当たりに人間が処理できる限界以上の放射線を被曝してしまうと、回復が困難になるでしょう。

 あるいは「総線量」と呼ばれているものも、実は1人の人間の人生を70年程度と仮定して、この期間内に浴びても大丈夫な放射線被曝の頻度、つまり生涯の線量率を言っているものなのです。

核にとっても頻度が決定的

 実はこの「頻度」が決定的だという事情は人間だけのものではありません。原子核たちにとっても同じなのです。

 原子炉の運転や停止は「制御棒」という棒を抜き差ししてコントロールします。これは実はウラン235という放射性物質が核分裂を起こす「頻度」をコントロールしているのですね(今ここでは本題から外れるので、このメカニズムには深く踏み込みません。回を改めてお話します)。

 原子力発電所で用いられる核燃料は「低濃縮ウラン」と呼ばれるもので、核兵器に用いられる高濃縮ウランよりもウラン235の濃度が薄いものですが、この濃度が薄いということは、そのまま原子核反応の頻度が少ない、つまり激烈な反応をしないということを意味します。

 ウラン235の濃度が低ければ、核分裂の反応はまれにしか起きない、つまり反応の頻度が低く、(後でお話するように)そこで発生するエネルギーも少ないですが、一定以上の頻度で反応が進むと低濃度核燃料であっても「連鎖反応」が起きるようになりコンスタントにかなりの熱を発生します。これが原発の運転原理です。連鎖反応が継続して起きるようになることを「臨界に達した」と呼びます。

 原子炉を停止する、とはこの核分裂の連鎖反応を止めること、つまり頻度を下げることなのです。

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