• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

われわれは自然災害という「異常値」と共存するしかない

求められる統計学的思考によるリスクの分散

  • 吉田 耕作

バックナンバー

2011年4月28日(木)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 2011年3月11日、記録破りのマグニチュード9.0の大地震が東北地方を襲い、その後の大津波を伴って、死者と行方不明者を合わせ約3万人という第二次大戦後で最大の災害が起きた。亡くなった方々のご冥福をお祈りするとともに、被災者の方々に心よりお見舞いを申し上げ、その悲しみと苦しみに心を馳せるものである。

 この地震の影響は実に広範囲の地域で感じられた。首都圏ではほとんどすべての交通機関が止まり、自宅に戻れない帰宅難民が出た。ターミナル駅では2万人を超える人々が足止めにあったようだ。大規模な停電や石油精製所の火災も起き、電力が我々の生活のあらゆる局面でいかに重要な働きをしているかという事を実感した。福島第一原子力発電所は我々が常に危険と共に生活している事を思い知らせた。正にほとんどの社会のインフラが機能しなくなったという事は、非常に多くの教訓を与えた災害であった。

 この国を挙げての大騒動の最中、少々時期尚早の感はあるものの、災害の直接的被害を免れた我々としては、この惨事を振り返り、2度とこういう被害が起こらないように考えていく責務があろう。

 まず、この地震の予測がつかなかったのかという事である。たとえ、数分前でも良い、何らかの兆候が起きなかったのだろうか。今回の地震の予測に関して、二つの可能性を考えた。私は地震の専門家ではないので、これはあくまで推測であるが、どうやら地震の専門家は、地震の起き方は前の地震が起きてから次の地震が起きるまでの間隔は一定の期待値(平均値)を持った正規分布であるという仮定で予測しているようである。

 また、地震の強さも一定の期待値を持った正規分布と仮定しているのではないだろうか。もし、仮にそうであるなら、私はこの仮定には疑問がある。少々技術的になるが、正規分布というよりStable Paretian Distributionに近いのではないか。つまり、平均値から非常に離れた値(非常に大きな地震)が起きる確率が通常の正規分布から得られる確率よりも高いのではないかという事である。

 形状的に言えば、小尖塔分布(leptokurtosis)とでも呼ぶべき、通常の正規分布より中心部分がとんがっており、山のすそのが厚い分布(fattail)である。つまり、平均から非常に離れた強さの地震が正規分布より起きやすいという事である(図1を参照)。この仮説が正しいのならば、分布の前提を変える事によって予測の精度を向上させる可能性がある。

 もう一つの場合は、いかなる分布でも説明することのできない異常値が発生したと考えられる事である。今回の地震は、あまりにも大きいマグニチュードから考えて、こちらの可能性の方が高いのではないか。この種の異常値であるならば、残念ながら予測は不可能なのである。

 確率は過去のデータから得られた情報から作られた一定の分布を前提として一定の確率を計算する場合が多い。今回の災害に対して、誰もが言っている言葉に「想定外」というのがある。「想定外」というのを統計用語に直すと異常値(outlier)であり、それはあまりにも平均値から外れているため、既知の確率分布に基づいた理論では対処できない値をいう。

 しかし、起こらないという保証はないし、いつ起こるかを予測する事は統計学的には不可能と言える。つまり、そういう値を異常値だということもできる。異常値に対して人間はほとんど無力である。人間は異常値を、自然災害も含めて、コントロールしたり防御したりすることはほとんど不可能であるという前提に立って、生存の策を練るしかない。人間は、自然災害をも含め、異常値と共存するしかないのである。

 最近、地球環境が大きく変化している。そういう事がどの程度影響しているのかまだ証明されてはいないのだが、地震にかかわらず、集中豪雨や異常な夏の熱波や冬の豪雪など、以前よりも不確定要因が増えているような気がするのは、万人の認めるところである。

 ここでは、不確定要因のうち、分布が分かっているリスクと、分布が分からない異常値に分けて考えよう。つまり分布が分かっている不確定要因をリスクと呼び、分布が分からない不確定要因を異常値と呼ぶ。そうすると、リスクは計算できる。例えば、ある程度の被害をもたらした自然災害というのは常に起きており、長い歴史にわたる多くの情報から一定の分布が得られているので、どういう状態ではどれぐらいの損害が出るのか大体の予測が可能だからである。

 一方、異常値というのは過去の既知の分布があてはまらない状態をそう呼ぶわけだから、異常とか記録破りというのは過去の記録が無い状態を言い、いつ起こるか、どのように起こるかは予測がほとんど不可能である。異常値に対する対策は分散による損害の低減というのが、人間にできるせいぜいの対策と言える。

予測できない津波は来る

 岩手県釜石市では約1200億円を投じ、全長1960メートル、基礎部分は水深63メートルの海底に築かれていていたが、釜石港では予想を超える津波によって破壊され、木造家屋、漁船や自動車が甚大な被害を受けた。全体では岩手、宮城、福島3県の海岸にある堤防の延長約300キロメートルのうち、190キロメートルが全・半壊し、壊滅的な被害をもたらした。また、「日本一と言われる防潮堤」とか「万里の長城」とよばれた岩手県宮古市田老地区の津波防潮堤が倍くらいの高さの波にやすやすと簡単に乗り越えられた。これに関連して思い出されるのは、どんな地震にも耐えられると言われた高速道路が阪神・淡路大震災の時にいとも簡単に破壊されたという事である。

コメント3

「統計学者吉田耕作教授の統計学的思考術」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック