• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

社会不安への経済学的対処法

金融危機の事後的対応から考える「買いだめ」対策

2011年5月17日(火)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 東日本大震災の後、被災地から数百キロ離れた首都圏の店頭から食料品や日用品が消えた。災害によって供給が途切れたのではなく、震災後に起きたパニックによって買い占め・買いだめ行動が起こったのだ。1973年の石油危機にも同じような買い占め騒動があった。また、韓国でも2010年3月に起きた哨戒艦沈没のあとにこういった騒動があった。

平時のまとめ買いは「効率的」

 平時のまとめ買いは、忙しくて毎日スーパーに行く時間がないといった将来の「限られた購買機会」に備えた需要で、パニックによる買い占めとは違う。消費したくなった時にいつでも消費できるよう、その都度買い出しに行く時間的なコストや在庫保有のコストと比べて、適量だけ保持する方を選ぶ行為だ。こうした在庫需要は、価格の安い時に買い置きしておく行動に見られるように、価格と連動して安定的に増減する傾向がある。実際、日本の大型スーパーマーケットの定期的な安売りは、まとめ買いの在庫需要をターゲットにしていることが多い。平時のまとめ買い自体は、消費者の購買にかかる時間や労働費用に対する、極めて効率的な対応といえるだろう。

 これに対して、今回のようなパニックによる買い占めは値段とは無関係で、災害で生じた「将来不安」で発生する。日本の大都市圏で数カ月も食料供給が途切れるとは考えにくいのに、将来に対する不安が、不必要な在庫保有を促したのだ。

 重要なのは、「人が大量の買いだめをするのでモノがなくなるのではないか」、という疑念が、人を買いだめ行動へ向かわせる点だ。多くの人がこう考え始めると、その悪い予想が当たり、実際に店頭からモノがなくなる。「悲観的な期待が自己実現してしまう」のだ。そして必要な人(消費したい人)にモノが行き渡らなくなるという資源配分の非効率性が生じる。

 このような非効率性は、手段を講じて解消できるならすべきだ。だが、実際には事前の政策で騒動を未然に防ぐことはほぼ不可能で、事後的な対策で、できるだけ多くの消費したい人にモノが行き渡る可能性を増やす(店頭で「お1人様1つに限定」と制限をするなど)しかない。

取り付け騒ぎ発生のメカニズム

 買い占め騒動で見られた「悲観的な予想が自己実現してしまう」現象は、金融危機の局面でも多く見られる。いわゆる取り付け騒ぎだ。この場合は、買い占めと違って様々な善後策が考えられている。

 銀行取り付け騒ぎでは、コスモ信組(1995年)、木津信組(1995年)、山一證券(1997年)で預金者が預金払い戻しを求めて窓口で列を作った。昭和金融恐慌(1927年)、豊川信金事件(1973年)、能代信組事件(1995年)や佐賀銀行倒産メール事件(2003年)では、事実無根のうわさや不正確な報道が、金融機関への信用不安をあおった。

 2007年から始まった世界金融危機では、英ノーザンロック銀行、米ベアー・スターンズやワコビアへの取り付け騒ぎが記憶に新しい。いずれの場合も、通常の業務では想定していない巨額の資金が多くの預金者・投資家によって一斉に引き出され、立ち行かなくなった。

「「気鋭の論点」」のバックナンバー

一覧

「社会不安への経済学的対処法」の著者

渡辺 誠

渡辺 誠(わたなべ・まこと)

オランダ・アムステルダム大准教授

1996年早稲田大学政経学部経済学科卒。98年京都大学大学院経済学研究科修士課程修了。2006年英エセックス大学経済学博士。カルロス三世大学を経て現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

リクルートは企業文化そのものが競争力です。企業文化はシステムではないため、模倣困難性も著しく高い。

峰岸 真澄 リクルートホールディングス社長