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電力会社は福島の事故を機に発想の大転換を図れ

「原発は安全」「電力需要ありき」は通用しない

  • 横山 禎徳

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2011年5月10日(火)

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 東日本大震災によって、日本の電力システムがいかに脆弱かが明らかになった。

 現状の電力供給体制では、今夏の電力需要を賄えない恐れがある。

 しかし、供給を増やすことは容易ではない。原子力発電所の増強は、近隣住民の理解を得るのが難しい。とはいえ、火力発電に頼り、地球温暖化ガスを増加させるわけにもいかない。

 では、どうするか?

 大学やシンクタンクの研究者、エネルギービジネスに携わるビジネスパーソンに、電力需給ギャップ問題の解決策を提示してもらう。

第1回は 東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム(東大EMP)
企画・推進責任者 横山 禎徳

 今回、「クリーン・エネルギーはダーティ・エネルギー」に一瞬にしてなり得ることを福島第1原発は示した。事故が起こらなければ温暖化ガスが発生しないという意味でクリーンだが、いったん事故が起こるときわめてダーティになる。しかも長期にわたって尾を引き、そう簡単に決着がつかないことを世界中に示した。また同時に、我々一般大衆は、放射能に関してきわめて無知であることもよく分かったのである。このような非日常の事態に対してほとんど判断のよりどころを持っていない。

 今回の事故は起ってほしくない時に起こってしまった。「再生エネルギーと比べて規模、安定性、コストの面からやはり原子力エネルギーは有利である」「今後、地球温暖化防止のため重要な役割を果たすべき」という世界的なコンセンサスが出来上がりつつあった、まさにその時期にきわめて厄介な難問を世界は突き付けられた。福島原発の事故は、これまでの原子炉設計の盲点を示しただけでなく、電力の需給の面でも供給者思考の盲点を示した。

少し勉強すれば「タンデム」にすることはない

 原子炉設計の盲点は災害時の安全性の考え方にある。「原子力はきわめて危険だから人知で考えられる限りの徹底的な安全策を講じる」というのが本来の発想であるべきだ。しかし、電力会社は「原子力は安全だ」という広報をしてきた。自分たちもその建前を信じてしまい、危険を押さえ込むための徹底的な安全策を追求するという点で抜かりがあった。

 想定外の規模の地震であったにもかかわらず、それには耐えて原子炉は自動停止した。非常用電源が作動したが、その後の津波で水没し、電源が失われた。この電源喪失がその後の展開の始まりであった。この非常用発電装置がタンデム、すなわち、2基並列で地下に設置してあったと聞き、「ああやっぱり」と思ってしまった。これでは2基が同時に使い物にならなくなってしまう。

 2006年に旧江戸川でクレーンを積んだ船が送電線を2本とも切った事故があった。この時、東電の責任か船会社の責任かで意見が分かれた。私は「どっちの責任かを問う以前に、タンデムにしてある設計思想が安全上問題だ」とある講演で指摘した。東電はこれを一笑に付した。電力網のことも知らずして何を言うかということだったのだろう。今回は「津波の責任」でなく、すべて東電の責任なのだ。具体的には原子炉を設計したエンジニアの責任だ。

 彼らは原子力以外の分野の安全思想などを勉強しなかったのだろうか。また、地域の災害の歴史などを勉強しなかったのだろうか。少しでもそのようなことに着目していれば非常用発電機を地下に並列で置くという設計はしなかったであろう。

 飛行機の場合、ほとんどの装置を作動させるのに、油圧2系列を装備している。さらに、これらとは別の緊急操縦系統を加えている。建築の世界では2つの施設を並列にはしない。建物の軸線を変えるか、形を変えるかくらいのことは確実にする。基本的には場所を変えるのが自然な発想だ。

 ほぼ全滅した石巻市雄勝町で、雄勝硯伝統産業会館が無傷のように残っている。これを設計した建築家は、父親の故郷である同じ宮城県の漁村の人々から聞かされていた1986年(明治29年)の三陸大津波、1960年(昭和35年)のチリ地震津波の話から、ヒントを得て設計を工夫したと語っている。具体的には、津波に対して突っ張るような構造にし、電気設備を10メートル上の屋上にすべて置いた。

 このように考えると非常用発電装置の喪失は「想定内の出来事」であると言うべきだ。また、その危険性は東電社内で長年指摘されていたとも聞く。非常用発電設備にかける費用を倹約したのではないだろう。非常用発電設備を入れる建屋の建築土木工事にかかる費用が、原子力発電所の建設予算に占める比率はきわめて小さい。自分たちの常識が世間の非常識かもしれないことに目を向けなかったことが、結果として、世界の原子力発電の方向を左右することになってしまった。

 原発に関する今後の議論はきわめて難しい。冷静な議論ができる状況を作り出す努力が必要だ。その際、これまでの「原子力は安全だ」ではなく「原子力はきわめて危険なので徹底的に安全対策を打つ」という本来の方向に早急に転換をすることが最低限必要だ。傲慢な浅知恵を排除する仕組み作りとともに、情報隠匿の不信感を完全に払しょくすることも大事だ。

 その上で、原子炉及び放射能に関する啓蒙のため、すべての議論を公開し、一般大衆の疑念に誠実に答えることを始めるべきだろう。原子力に対する関心がきわめて高いこの時期、啓蒙の効果は高い。そこからどういう結論にたどり着くかは、今は予測不可能だ。

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