2009年5月11日から2010年7月27日まで毎週掲載されていた連載小説「
「休暇を取りたいんです」
ものすごく申し訳なさそうな顔をしながら楠原が風間に申し出た。
「いいよ。休みなよ。弘毅くん、ほとんど休んでないから。有給、たくさんあるでしょ」
「大日本鉄鋼なら入社3年目ですから年間14日ですけど……」
あ、……。
「そっか。株式会社オルタナティブ・ゼロだもんね」
大日本鉄鋼の第三企画室だったこの3人の部署は、いまオルタナティブ・ゼロという別会社になっている。最初の給料は大日本の金額を引き継ぐことにした。社会保険なども含めて、会社と従業員とのあいだの約束事は、元の会社に準じて決めたはずだ。いや、決めたというより手間を省いた。
なにしろ、会社がスタートしたのは忙しい盛りのときだった。細かな規則など後回しだった。
茅ヶ崎南製作所を立ち直らせ、サウスガレージ・ワンを立ち上げることで頭がいっぱいだった。自分の会社の規則や制度のことなんて考える暇なんてなかった。
それぞれ会社を休んだことはある。
それを有給休暇の日数に結びつけて考えたことはなかった。自分も楠原もこの会社の従業員にちがいなかった。けれど、むしろ社長の旭山と3人、同志、共同創業者のつもりでいた。
「大日本と同じに決めたはずだよ」
「それはわかってますけど、〈はず〉じゃ困ります」
「たしかにそうよね」
風間はイントラネットの管理フォルダーを開いた。「諸規定」のファイルはすぐに見つかった。
「はい、楠原さん、入社3年目はおっしゃるとおり14日です」
「でも、3年目なのは大日本鉄鋼から勘定した場合です。この会社ができてからはまだ……」
「そっか。そういう細かいこと考えたこともなかったな」
「どうしたらいいんでしょう」
「ていうか、別に休みたいとき、休めるときは休んでいいよ。サラリーマン臭いこと言わないようにしようよ。それじゃ大日本鉄鋼みたいじゃない。そういうのやめようってのが、そもそもの第三企画室の始まりなんだからさ」
「ええ、いままでそうしてきましたけど……」
「じゃあどうして急にそんなこと言い出すの」
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