東日本大震災は地震と津波と原発事故という三つの災害の同時発生により、非常に多くの犠牲者を出し、被災者は家屋、船舶その他のあらゆる財産を失い、第二次大戦以降最大の被害をもたらすという、一時は日本人を絶望の底へ突き落すような、大惨事となった。
しかし、その壊滅的状態から極めて頼もしい将来への光が見えてきているように感じられる。それは第二次大戦後の焼野原から復興した、日本人の不屈の魂の再現でもあるのだが、それ以上に、近年忘れられていた、日本人がお互いに助け合っていこうとする協調の精神がよみがえって来たように思われるからである。
今回のような大惨事に会いながら、乏しい救援物資の到来を忍耐強く整然と列をなして待っている被災民の方々の行為は諸外国で絶賛の対象になった。ほとんどの漁師達は船を失ったが、数少ない残された船を他の漁師達と共用している。この震災の影響を受けていない他の港から多くの中古の船が寄贈され、漁協の物として共用されている。大企業はいわば大儲けのチャンスであるにもかかわらず、多大な自社製品やサービスを自らの手で無償で被災地に送った。中小企業は機械や部品はおろか顧客まで融通し合い、互いに復興に向けて協力し合っているという。文字通り無数のボランティアや職人や医療チームや自衛隊が被災地で働いている。私は、困窮した同胞を助けようという無数の日本人の存在に感動し、日本の将来は非常に明るいものであるという確信を持ったわけである。
日本は「失われた20年」と言われるように、政治、経済、勤労者達の勤労意欲などすべてにおいて低迷し、若人は将来に対する希望を失い、「日本病」と呼ばれ世界で認知されるほどにまで落ち込んだ。しかし、個々の日本人を取ってみると、皆そこそこの生活をエンジョイし、誰も問題を深刻にとらえなかった。いわば日本は安楽死の過程をたどっていたのである。今度の大惨事を突き付けられ、このままでは日本は本当につぶれると真剣に危機感を持った人は極めて多かったようだ。これを「天罰」と呼び、物議をかもした政治家がいたが、多くの犠牲者を出し、未だその悲しみから抜け切れない多くの被災民の方々には大変申し訳ない言い方であるが、日本にとって、これはある意味、「天の警告」ではなかったか。この大きな犠牲をともなった災害をもって初めて、日本人は危機感を持ち、日本人がDNAに持っていながら長年にわたって忘れてきた協調の精神を呼び覚ましたのだと考える。
協調はバラツキを減らし質を向上させる
バラツキを減らし平均値を改善するという統計的な物の考え方が、品質のみならず、教育、医療、経営、ひいては社会全体の質を向上させることに思いが至ったのは20年ほど前の事である。その後は、私はその考え方を主として経営に応用する事をライフワークとしている。ここで大事な事は競争は一般にバラツキを広げ、協調はバラツキを狭くする働きがある事である。競争が奨励されると格差が生じ、敗者は社会の落ちこぼれになり社会全体の質を下げる。勝ち組、負け組を作ることなく全体の質を向上させるのには協調のシステムと精神が不可欠となる。
元々、農耕民族である日本人は協調の文化を持っている。日本列島の田植え時や稲刈り時は大量の人力を必要とし、それらの適切な時期は急速に南から北へと移って行く。それがため、お互いに助け合わなくては生きていけないという事情があったようだ。加えて、604年の十七条の憲法に「和をもって貴しとなす」という儒教の精神が憲法に定められて以来、日本人には文化的にも協調精神が連綿として受け継がれてきている。
これに対して、明治年間の開国に際して、狩猟民族を土台とした西洋文明が日本を席巻したのだが、自由競争も新しい文化として取り入れられた。第二次大戦後にはさらに米国から自由競争の概念が大々的に導入され、米国式自由競争が日本の経済及び経営において主流の思想となった。
しかしながら、ここで注目しなければならないのは、こういった西洋化という過程において、日本人は日本文化の特質と言える協調を捨て去る事なく、競争を受け入れたのである。例えば、企業は市場では企業間で激烈な競争を繰り広げながら、同時に企業内においては、年功序列制や終身雇用制により従業員間の競争を抑圧する制度を維持してきた。これらの制度によって、従業員は協調して会社の利益を最大にすることが期待され、従業員もその期待に応えてきた。また、第二次大戦後は政府と産業界は密接に協調し、乏しい資金の中から石炭や鉄鋼等の基幹産業に集中的に資本を投下し、徐々にその他の産業にも投資を広げていくという産業政策をとり、戦後の急速な経済成長を可能にした。
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