• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

感情移入と大局観

秋山真之と『孫子』に学ぶ戦略と戦術〈最終回〉

2011年6月1日(水)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 ライバルを知る、敵の出方を知る、という意味で、われわれの参考になる事例が、昨今何かと話題の多い相撲界にあります。時は1980年代前半、大横綱の千代の富士が君臨し始めた頃のこと。ところが彼には天敵ともいうべきライバルがいました。

 それが同僚の横綱、隆の里。一時期は八連敗を喫したこともあり、千代の富士は後にこんな述懐を残しています。

《あのころは、顔を見るのも嫌でしたねぇ。何をやってもうまくいかないんですよ。私がまったく違った作戦でいくと、また相手がその裏をかいてくるんです。なんか向こうのサイクルに、ぴったりはまってしまうんです。なんでこんなことまで考えてくるのかみたいな》『私はかく闘った』千代の富士貢 向坂松彦 NHK出版 以下同

 では何故、隆の里は千代の富士を、これほどまでにカモにできたのか。その裏には、驚くべき努力が隠されていました。『プレジデント』と『朝日ジャーナル』を愛読書としていた知性派の隆の里は、こんな手を打っていたのです。

《次の天下を取るのは、千代の富士とにらんだんです。その日から、千代の富士の相撲データを集めました。自分が上位にあがるためには、王者になる千代の富士を破らなければいけないと考えたんです。データは、本場所のビデオはもちろんのこと巡業中の千代の富士の稽古、それに千代の富士の物の考え方が知りたくなりまして、趣味趣向や横綱の読む本まで調べたものです。巡業中は、なるべく千代の富士のそばに明け荷を置いて、暇なときに何をするか観察したものです。そうして集めたデータから、今場所の千代の富士は、どう攻めてくるか作戦を練ったものです。

 大事な一番で顔を合わせるときには、二、三日前から、二四時間、一緒に生活している気持ちになって相手の出方を考えたものです》

 読みようによっては「それってストーカーでしょう」という突っ込みを入れたくなるような努力の積み重ねで、千代の富士を完全に圧倒していったのです。

 そして、この隆の里の努力にこそ、実は前回からのテーマである「インテリジェンスにつきまとう難問」を解くヒントが隠されています。一言でいえばそれは、

「感情移入能力」

 の有無なのです。つまり、隆の里のように対象のデータを徹底して集めたうえで、相手と同じ気持ちになり切り、心象風景を読みとることができるのか、にポイントがあるわけです。そして、多くの古今の勝負師たちも、この点では同じ資質を共有していました。秋山真之も、もちろん例外ではありません。

教官の心象風景を読み切った真之

 秋山真之は、兵学校時代に抜群の成績を残していますが、このとき面白い逸話を残しています。彼が成績優秀だった秘訣を、後輩だった竹内重利がこう述懐したのです。

《秋山君は卒業前に大小試験問題紙綴りを全部与にくれて曰く、「過去五年間の試験問題を通覧すれば出さうな問題は大概推察することが出来る。必要なる問題はどの教官でも大抵は繰り返して出すものだ。又平素より教官の説明振りや講義中の顔付きに気を附けてゐると、其教官の特性が分かるから、出しそうな試験問題を略ぼ推定することが出来る」》『秋山真之』 秋山眞之會編 マツノ書店 漢字のみ新漢字に改変 以下同

 NHKドラマ『坂の上の雲』でも使われていたエピソードなので、ご記憶の方もいらっしゃるかもしれません。真之は、「とにかく何でもかんでも端から覚えてやる」という愚直な努力を重視するタイプではなく、教官の心象風景を読み切ることで高い成績をあげるタイプだったのです。

 さらに、こんな述懐もあります。海軍における勲功調査委員だった櫻井眞清少将は、参謀だった真之が自分のところに度々やってきて、評価に対してこんなアドバイスをしていったというのです。

《感状(引用者注:戦功たたえる感謝状)の有無といふ事に囚はれるな。感状は固より原則として勲功顕著なる時出すものではあるが、時には統率上士気を鼓舞する為めに、左程にもない功労に対して之れを与へる場合がある。故に感状を貰はざるも貰つた者以上に功のあるものがあり、貰つても、その功貰はざる者に及ばないものもある。此点をよく含んで、若し感状を以て勲功調査の材料とするやうな場合あらば、先づ感状の出た時機を考査してみるがいゝ。その時機が何等士気を鼓舞する政略の必要なき際のものであつたなら、これは安んじてその勲功を認めてもいゝ。然らざる場合は軽々に判断を下してはならない》

 これも感状を出す側の心象風景を読むことが、アドバイスのベースになっているわけです。真之は当時、「事の真相に通じている」、と評価されていたようですが、そこには彼の「感情移入能力」の高さが間違いなく関係していました。

コメント1

「明治の男に学ぶ中国古典」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

機械を売るんじゃなくて、電気が欲しい方に電気が起きる装置をソフトも含めて売るビジネスをしていこうと。

田中 孝雄 三井造船社長