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「不公平」を経て、初めて最大幸福は達成できる

第3回 トップの役割(その2)~トレードオフを伴った決断

2011年5月31日(火)

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 橋の中ほどにさしかかると、橋の下に知らない犬が歩いている事に気が付きました。そして、なんとその知らない犬も、大きな骨付き肉をくわえてるではありませんか!
 よくばりな犬は、その肉もうばってやろうと思い、大きな声で吠えました。「ワン!」。すると、その途端、ポチャン、くわえていた肉が、川へ落ちていきました。

(イソップ童話「よくばりな犬」)

 前回、トップの仕事は人がやりたくない仕事、つまり難しい決断をすることだと申し上げました。その難しい決断には、不確実な中で決めなくてはならず、したがって失敗する可能性、非難される可能性があるという側面、そして今回もうひとつの側面であるトレードオフを伴った決断について考えてみたいと思います。

 ちなみに、前回申し上げた「直観」とは、経験や苦労という水がたまった器からしずくが滴り落ちるようなイメージです。空の器をいくら振ったところで、「直観」は生まれてはきません。

戦略の本質

 国でも企業でも、物事を成し遂げるために戦略を持たなくてはならないとよく言われます。実際、毎日の新聞には、経営面だけでなく、政治・経済面にも「戦略」という言葉が頻繁に登場します。それでは戦略とは何でしょうか?

 前著(『戦略の原点』)で、私は次のように定義しました。

戦略とは、ある一定の目的を達成するために、ターゲット顧客を絞り込み、自社固有の強み(ユニークネス)を用いて、競争相手よりもより安いまたはより価値のある商品・サービスを提供するための将来に向けた計画である。

 そして、さらに「トレードオフこそが差別化を生む」ことを強調したつもりでした。しかし、現実にマスコミの記事、政府発表などで語られる「戦略」は、「計画」と置き換えてもなんら問題のないケースがほとんどのように思われます。「計画」というよりは「戦略」といったほうがかっこいいというという軽いノリ。そこでは、前回も強調した自社(あるいは自国家)をよく知りその強みを十分吟味していないばかりでなく、トレードオフがありません。つまり、単なる「やりたいことのリスト」「課題の羅列」でしかないことが多いのです。

 この「思い違い」は深刻です。なぜなら、資源は限られているからです。ヒト、モノ、カネという意味でもそうですし、時間という意味でもそうです。限られた資源でやりたいことすべてをしようと思うと、資源は分散します。結果として、何一つ満足な結果が出ないで終わります。つまり、トレードオフとは、大切なものを守り抜くための要なのです。限られた資源の現状を踏まえ、取捨選択をすること、「肉を切らせて骨を断つ」ことこそが戦略なのです。

「公平」であれば幸せになれるか?

 実は、私たちは毎日の生活でもいろいろなトレードオフをしています。本当は家族で旅行に行きたいけれど、息子が私立に入りたいというので貯金をするために我慢しようというのもトレードオフですし、そもそも結婚なんていうものはその最たるものです。経営でいえば、本業に集中するために関係の薄い事業から撤退する、国でいえば第二次世界大戦後、基幹産業である鉄鋼、石炭に重点的に資金を振り向けた傾斜生産方式は有名です。

 その意味で、トレードオフは「あきらめ」「不公平」をすることだといえます。しかし、「不公平」をすることこそが最大幸福への道なのです。傾斜生産方式でいえば、まず基幹産業を強くし、そこを足場にして経済全体を復興させようという考えであったわけですし、会社による本業回帰にしても、資源の分散による競争力の低下を防ぎ、企業を再び成長路線に戻すことを通じて社員や株主の幸福を目指すために行うものです。逆に、野球のチームで、上手な選手が試合に出れば決勝まで行けたのに、「公平」を期すために、全員が順番に出て1回戦で負けてしまえば、いったい誰がうれしいのでしょうか。

コメント8件コメント/レビュー

政府における最大幸福とは何なんでしょうね。最大幸福のためには小さく嫌われても仕方ないという理屈は分かりますが、犠牲を払うに値する目標が何かが曖昧なままでは、それこそ全滅になりそうですね。(2011/06/01)

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「「不公平」を経て、初めて最大幸福は達成できる」の著者

清水 勝彦

清水 勝彦(しみず・かつひこ)

慶應義塾大学大学院教授

東京大学法学部卒業。ダートマス大学エイモス・タックスクール経営学修士(MBA)、テキサスA&M大学経営学博士(Ph.D)。戦略系コンサルティング会社のコーポレィトディレクションを経て研究者に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

政府における最大幸福とは何なんでしょうね。最大幸福のためには小さく嫌われても仕方ないという理屈は分かりますが、犠牲を払うに値する目標が何かが曖昧なままでは、それこそ全滅になりそうですね。(2011/06/01)

なぜ、日本の経営者の多くがなぜトレードオフできないのか?経営がしたくて経営者になるのではなく「社長になりたかった」から。特にサラリーマン社長に顕著だと思うのですが、経営者になることが、自分の理想を実現するための手段でなく、サラリーマン人生のゴールそのものであり、経営責任も定年までの短い間なので安泰に過ごせればというスタンス。自分へのご褒美ですね。そんな経営者がリスクを伴う判断をするわけがありません。(2011/05/31)

トレードオフが必要だ、というのは分かるし、トレードオフ(優先順位付け)のできない管理職、経営者は駄目、と言うのも分かる。ただ、それを政府に当てはめても良いのか?については疑問である。今まで何となく分からなかった「国というセクターは優先順位の付け方が企業とは違うのではないか」ということを結果的に考えるきっかけになったと思う。そもそも「最大幸福」が国の目指すべき前提としてあっているのだろうか?ねえ、サンデルさん。(2011/05/31)

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