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リードタイムがズルズル延びる日本メーカーの病理

そのサイクルを6分の1に短縮した“意外”な方法

  • 岸良 裕司

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2011年6月6日(月)

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 東日本大震災によって生産停止の連鎖が日本全国や海外にも広がり、日本のモノ作りの効率化は行き過ぎだったと再考を促す声が高まっている。だが、それは本当に正しい指摘なのか──。

 本コラムでは、ビジネス小説『ザ・ゴール』(ダイヤモンド社)の著者として知られるイスラエルの物理学者、エリヤフ・ゴールドラット博士が考案した改革手法の理論「TOC(Theory of Constraints:制約条件の理論)」とその具体的な手法を紹介しながら、実は効率化が進んでいなかった日本のモノ作りの実態を明らかにし、処方箋を提示していく。

 3回目の今回は、前回でも「ジャストインタイム」による在庫の極小化を実現するうえで障害となっていたリードタイムの問題を取り上げる。工場では生産性を著しく改善している企業でも、製品の受注から納品までのリードタイムが長くなってしまうのはなぜなのか。それを短縮するにはどうしたらいいのか。実例に基づいて理由と解決法を考えていく。

 前回は、約3カ月分もの製品在庫を抱えてその削減に苦しんでいたA社を事例として取り上げた。同社では、世界各国の市場における製品の在庫量などの販売情報をリアルタイムに把握できるにもかかわらず、数カ月先の需要を予測して製品の生産量を決めるオペレーションを行っていた。

 原因は、一部の部品について調達先に発注してから納入されるまでの供給リードタイムが長いことにあった。それに伴って、A社の製品の生産リードタイムも伸び、数カ月先の需要を予測せざるを得なくなっていたのである。

 ここで予測した需要量が正確であれば、在庫を減らせるはずだった。だが、現実にはそうならなかった。予測の多くが外れて、製品の在庫はかえって増えてしまったのである。

 前回では、このように過剰な在庫を抱える直接の原因となった需要予測の問題について解決策を論じた。今回は、間接的な要因となっていたリードタイムをどう短縮すべきかについて考えてみたい。

かつての革新力を失い、低価格競争に巻き込まれたB社

 今回の事例は、一般消費者向けのエレクトロニクス製品を手がけるメーカーのB社。前回紹介したA社は100カ国を超える国で製品を販売するグローバル企業だったが、B社もA社に引けを取らず、積極的に海外で事業を展開している。ただしA社との顕著な違いが1つある。技術のイノベーション(革新)によって、常に新たな製品の市場を自ら開拓してきた点だ。これは、B社の企業文化とも見られてきた。

 革新的な製品を次々と創り出し、飛躍的な成長を続け、世界中で高いブランドイメージを構築してきた。しかし近年は、海外の競合メーカーも研究開発に膨大な投資を行い、B社の牙城を脅かし始めていた。

 B社が発売した新製品をターゲットにして、競合他社は類似品を出してくる。競合が類似品を市場に投入するまでのタイムラグは年々縮まっており、今では、格下と考えられてきた他社の方が、B社のお株を奪う革新的な製品を先に出すことさえある。

 一方で、技術力によって差異化を図る余地は年々少なくなり、市場では価格競争が激化。B社の製品は従来、高いブランド力を背景にして競合他社より高い価格で売られていたが、今では競合よりも安い価格で売られることも散見されるようになった。実売価格の低下とともにB社の売上高は減少し続け、売上高営業利益率も悪化の一途をたどっていた。

生産拠点を中国に移して状況の打開を図ったが……

 こうした状況に対して、B社も手をこまぬいていたわけではない。価格競争の激化を受けて、いち早く生産コストの安い中国に生産拠点を移し、コスト低減に努めた。

 B社はシックスシグマやインダストリアル・エンジニアリング(IE)、ジャストインタイムなど、さまざまな生産管理の手法を積極的に導入。同社の生産管理は産業界で広く評価され、生産効率の極めて高いモノ作り企業のモデルとして、ビジネス誌の記事などで取り上げられもした。

 このように長年にわたって築き上げてきた最先端の生産管理手法を、同社は中国の生産拠点の工場に惜しげもなく移植する。そのかいもあって、中国の拠点工場の生産効率は飛躍的に向上。日本の工場をしのぐレベルにまで到達した。

 B社はその高い生産性を最大限に生かすため、国内で手がけていた製品の生産を次々と移管し、コスト競争力を高めていった。しかし、競合もさる物。定年を迎えて退職した日本の上場企業の生産技術者を次々と採用したり、トヨタ自動車の生産マネジメントに直接かかわった経験を持つコンサルタントから指導を受けたりして、自社工場の生産性をB社と変わらないレベルにまで引き上げた。

コメント16件コメント/レビュー

 下請け製造メーカーの経営者の立場で申し上げます。 本文については、実例に基づいた改革の内容が、大変参考になりました。 コメントも全て読ませて頂きましたが、様々な立場と、見方の違いがあり、(本文よりむしろ)興味深く読ませて頂きました。 確かにセットメーカーは、下請けに厳しく、非人情的で、コンプライアンス上間違っている点、倫理観にかける面があり、憤りを感じています。 ただし、それでも我々は、前を向いて、自ら強くなるしかありません。良いところは取り入れる素直さは必要だと思います。 肝心なことは、成果を上げることであり、ノルマ的な改善活動は、効果があまりなく、反対に、自主的な、自働化された現場と、賢い経営が連動していれば、手法は違っても、自ずと成果は上がるのではと思ってます。 (2011/06/16)

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いただいたコメント

 下請け製造メーカーの経営者の立場で申し上げます。 本文については、実例に基づいた改革の内容が、大変参考になりました。 コメントも全て読ませて頂きましたが、様々な立場と、見方の違いがあり、(本文よりむしろ)興味深く読ませて頂きました。 確かにセットメーカーは、下請けに厳しく、非人情的で、コンプライアンス上間違っている点、倫理観にかける面があり、憤りを感じています。 ただし、それでも我々は、前を向いて、自ら強くなるしかありません。良いところは取り入れる素直さは必要だと思います。 肝心なことは、成果を上げることであり、ノルマ的な改善活動は、効果があまりなく、反対に、自主的な、自働化された現場と、賢い経営が連動していれば、手法は違っても、自ずと成果は上がるのではと思ってます。 (2011/06/16)

実際に2000年に導入したと書いた者です。日本は需要不足と言われますが、真実は需要と供給のミスマッチだと思っています。「本当は消費を楽しみたいけど、欲しいものが売ってない」ということです。だから需要に応える一部商品はプレミアが付いても売れてます。一方でまとめ生産の作りすぎで需要を上回り、タダ同然で投げ売られてるものもある横で。「あなたの工場の生産能力は?」と聞かれたら普通は数量を答えるでしょう。「どれだけの数が作れる・量が作れる」という回答。でもそれって需要にマッチしているのでしょうか。そこが問題です。 「個衆(大衆の反語)」という言葉がもう古ささえ感じさせる時代、需要が細分化されている市場に対応できている企業はどれだけあるのでしょう。だから、現代は生産能力を聞かれれば「何種類作れる」という答えも必要なのです。が、これに即答できる工場責任者は自動車メーカーぐらいでしょう(自動車工場の実際の潜在能力は生産台数=生産車種数です。色をはじめ、限りない組み合わせの注文を一台一台管理生産できる潜在能力があります。活かしてるかどうかは別として)。それを意識してない経営者や工場責任者の方が多いのではないのでしょうか。もちろん途上国の需要は大量生産を求めますから、今の意識でも海外に出ればやっていけるでしょう。日本で需要が細分化(個衆化)している今現在の一番の例はスマートフォンです。ユーザーは色んなソフトを入れたり、設定を自分に合ったものにして、「自分だけの欲しいもの」に仕上げています。実際、スマートフォンやPDAは全く同じ状態で使われてる個体は1台として存在してないでしょう。私もPDAの時代、色んなユーザーと会いましたが、1台として同じものは無かったです。見かけは同じでも、操作すればすぐに違うことが判ります。これが証明。日本での需要にマッチしたものを適切なタイミングで供給するには、リードタイムのムダは許されません。この記事で取り上げられたようなムダは取り去らねばなりません。それができれば需要の無いものは生産されず、投売りで利益を失うこともありません。だからやっきになって導入したのです。「欲しがられないもの」を努力して生産することほど虚しい事はありませんから。どうせ作るんなら、手にした人が喜ぶものを作れる工場にしたいものです。(2011/06/08)

毎回”なるほど”という気持ちで拝読しています。文章を読むと当たり前のことのようにも思えますが、実は当たり前のことを実行するのが難しいということを、実務をやっている者としては実感しています。サプライチェーンはつながっていてこそチェーンですが、実際にやっていることは意外と個別最適で分断されてしまっているのではないでしょうか?ゴールもクリスタルボールも再読しようと思いました。TOCはいろいろな分野に応用できると思います。(2011/06/07)

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三品 和広 神戸大学教授