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第6話「いったい社長って、なにが愉しみであんなに働いているのかしら」

2011年6月13日(月)

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内外海行 受付

 内外海行の役員フロア入り口には、びっくりするほど大きな黒い大理石のカウンターがあって、その後ろに、淡いグリーンの制服姿の女性が二人、ちょこんとすわっている。二人の背後の壁も同じ黒い大理石で、その壁には一面に漢字とアルファベットの金文字で「内外海行」、“Naigai&Co.”と大書されているから、黒と金のなかに年若い女性がそろいの服を身に着けて、小さく優雅に浮かんでいるという光景になっている。

 社長室に行こうとするものはだれでもこのカウンターの前をとおらなければならない。
 カウンターの前の女性たちはいつも微笑みを絶やさない。しかし、どんな不審な動きも見逃さないように訓練されてもいる。

 もうすぐ昼休みになろうかというころ、寝不足なのか受付の二人のうち年かさの一人が、あくびをかみ殺そうと口元をほんのすこしあけた。あわててピンクの上下の唇に力をいれているところへ、一人の男が足音をしのばせつつカウンターに近づいてきた。ネクタイを外して、背広もだらしなく着くずしている。30歳を超えているだろうか。中肉中背、髪はぼさぼさのまま額に垂れている。

 二人の女性のうち、若い方の女性がすわったまま軽い会釈をした。
 男は、名刺を差し出しながら簡単に自己紹介すると、低い声で用件を切り出した。会釈をした方の女性が、体をもどしながら男に答える。

「は。社長についてのお話を、というご用件でいらっしゃられたんですか。
 広報のほうには?

 もう、ご連絡いただいているんですね。
 社長のどんなことでございましょうか?

 素顔?
 え? 社長だけではなく秘書にも話をききたい、と?

 でも、私は社長の秘書と申しましても6人いる社長秘書のなかでは入社したての新米ですし、そのようなことなどなにもわかりません。私なんかにきかれるよりも、一番古くから秘書をやっていらっしゃる古堂(こどう)さんがふさわしいのではないでしょうか。

 ええ、お名前はご存知でいらっしゃいますか。その古堂房恵さんです。
 は? 古堂というのはおいくつになる方かというご質問ですか?
 そういうことは、私からは申し上げるわけにはまいりません。しかられてしまいます。それに、私、古堂さんのお歳なんか、存じあげませんし。
 ちょっとお待ちください。古堂を呼んでまいりますので」

 若い方のその女性がカウンターの後ろにある隠し扉から奥へ入ると、入れ替わりに50歳前後とおぼしき女性がでてきてカウンターの内側に立った。

 「はい、私が古堂房恵でございます。

 ああ、経済ワールドの方ですか。いつもいつも社長がお世話になっております。御誌は大変見識の高い雑誌だと、常々社長が話しております。

 はあ、編集次長の大宮様でいらっしゃるんですか。それはそれは。
 申し訳ございません。本日はあいにく外出しておりまして、一日会社には戻らない予定になっております。

 え、なんですって。
 私にもインタビューをしたいですって?
 社長の素顔を聞かせてほしい、といういうお話ですか。

 なるほど、次々号がそういうご企画でいらっしゃるんですか。
 それは、それは。
 でも、そういうお話は、私などにはとてもとても。
 社長につきましてのマスコミの方のご取材は、すべて広報をとおしていただくことになっております。ですから、皆さんどなたにもそのようにお願いさせていただいております。ええ、どうかご理解ください。

 私、てっきり社長へのインタビューのお話とばかり。広報からも、大宮様のご訪問はそのようなお話だと言ってきておりましたものですから。

 たしか予定の日時も今日ではなく別の日だったかと。
 申し訳ありませんが、どうかご理解ください」

 男は、押し問答をするでもなく、また来る旨だけを告げると、拍子ぬけするように素直に引き上げていった。

秘書のランチタイム

 内外海行の社長秘書たちは、そろってランチをとることが多い。他の社員とは場所が離れているうえ、女性社員同士といっても、秘書とそのほかの部署とではふだんの付き合いも少ないのだ。

 ランチの中身は、それぞれ違う。近くのコンビニから買ってきた薄いプラスティックの容器にはいった弁当を机の上においているものもあれば、母親の手作り弁当を持参するものもいる。ちいさなピンクの弁当箱に、飾り見本のようにほんの少しだけご飯と惣菜がつめこんである。ときには昨日の夕食のメニューをほうふつとさせるものもある。

 6人のなかでちょうど真ん中の年齢の女性が、コンビニのパックに入ったスパゲッティをつつきながら口を開いた。小柄で、大きな眼をしている。

―― ねえ、ねえ、さっきのあのイケメン、どこの誰? パソコンの画面でみてたんだけど、カッコいいよね。背がもうちょっとあるといいんだけれど、でも、雰囲気あったよね。あの、眉がグッとりりしいとこなんか、とっても素敵。

 へえ、雑誌の記者だったの。
 ジャーナリストって感じだったよね。

 え、経済ワールド? 聞いたことないよ。なに、それ。
 そんなくだらない雑誌の記者なんかしてるようじゃ、大した人じゃないのか。なーんだ。残念。

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